こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

東ベルリンから来た女

otello2013-01-29

東ベルリンから来た女 BARBARA

監督 クリスティアン・ペツォールト
出演 ニーナ・ホス/ロナルト・ツェアフェルト/ライナー・ボック/ヤスナ・フリッツィ・バウアー/マルク・ヴァシュケ
ナンバー 20
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

もう誰も信じない。国家から裏切り者のレッテルを貼られた女は、優しく語りかけてくる同僚すら密告者に見えてしまう。人権が著しく制限されていた時代、物語は傷つき孤独なヒロインが少しずつ人間らしさを回復させていく姿を描く。職場では事情を知っている周囲の人々から腫れもに触る態度を取られ、自宅はいつも秘密警察に見張られている。そんな日常の中、秘密を隠していることが悟られないように常に無表情を通している彼女に脅えがほのかに見える。背筋をピンと伸ばした長身のニーナ・ホスが抑制の効いた演技で微妙な心の動きを表現する。

1980年東ドイツ、出国申請を却下され海岸の田舎町に左遷されてきた医師のバルバラは、西側にいる恋人の手引きで密出国の機会をうかがっていた。ある日、彼女の病棟に労働キャンプを脱走した少女・ステラが入院してくる。

バルバラの手まわしもむなしく、妊娠しているにもかかわらずステラは送還される。その後、自殺未遂で入院してきた少年は脳に後遺症の疑いが残る。いずれも田舎の医師には手に負えず、リーダー格のアンドレもバルバラの腕を頼っている。囚人や自殺志願者を積極的に助けるのは彼女が憎む体制に対する意趣返しになると思ったのか、それとも単に医師の倫理観なのか、バルバラは仕事に打ち込んでなんとか精神のバランスを保っているよう。たまに恋人と密会を楽しむときだけは“女”の表情を取り戻す、その落差が旧社会主義国家における国民の息苦しさを象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映画は音楽でバルバラの感情を代弁するなどの技法は用いずあくまで寡黙な上、一切の背景説明を省く。たとえばステラが収容されていたトルガウという場所はバラバラが暮らす町まで300キロ近く離れている。その距離感が明示されていれば、ステラがいかに過酷な環境を生き延びたのか、そして彼女の生命力と自由への思いにバルバラが未来を託した理由も浮かび上がってくるのだが……。「東ドイツ」から距離も時間も遠く離れた国に住む者にとって、記憶や想像でバルバラの気持ちは理解するのは難しかった。

オススメ度 ★★

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