こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

TOKYOてやんでぃ

otello2013-02-05

TOKYOてやんでぃ

監督 神田裕司
出演 ノゾエ征爾/南沢奈央/有坂来瞳/黒田福美/伊藤克信/池田鉄洋/ラサール石井/でんでん
ナンバー 26
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

遅刻、欠勤、出演拒否……。芸は素晴らしいが気難しい芸人、実力があってもあがり症の芸人、芸がないのに居座っている芸人、やる気が空回りしている芸人etc. 一癖も二癖もある寄席芸人・落語家が出番を待つ楽屋、映画は自らも高座に上がりつつも演目の合間を縫って舞台の進行をつかさどる前座落語家の奮闘を追う。注目されてナンボの世界、自己主張の強いものが生き残る。先輩後輩の上下関係はあっても待遇は人気次第、一方で欠点や欠陥も許されるユルさ。カメラは地道な裏方に徹する男の目を通して世間の常識から少しズレた人々の人間的一面をとらえていく。次々に後輩に抜かれながらも落語界にしがみつく主人公の悲哀が胸に沁みる。

付き合っていた恋人を捨て落語家に入門したピカッチは9年以上たってもいまだ前座のまま、楽屋の一切を取り仕切る役目を仰せつかっている。雑誌の取材の日、出演予定者が現れずてんてこ舞いしていると、別れた恋人がやってくる。

若い女性記者の前で自慢話を披露する芸人をはじめ、楽屋に屯する芸人はみな、考えているのは自分のことだけ。そんな連中を何とか宥め透かして高座に上げるのがピカッチの仕事なのだが、誰も彼の言葉には耳を貸さない。彼らの反論はさすがは話芸のプロ、屁理屈も立派な理屈に聞こえるほど堂々としていて、押し出しの弱いピカッチはただ頭を抱えるばかり。これといった個性のないまま漫然と時を過ごしてきた凡庸な男の苦悩がリアルに浮き上がっていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

人を笑わせる職業の人々をスケッチするコメディの体裁をまとっているが、描かれているのはシビアな競争社会の現実。でも、楽屋で寝泊まりしているヨビと呼ばれる万年控えの芸人をクビにせず、席亭は“イザ”という時に備えていたりする。その辺の人情もきっちり残っているあたりが効率至上主義に陥った日本社会への警鐘のようにも思え、人への思いやりの大切さを再認識させられた。

オススメ度 ★★★

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