塀の中のジュリアス・シーザー CESARE DEVE MORIRE
監督 パオロ・タヴィアーニ/ヴィットリオ・タヴィアーニ/ファビオ・カヴァッリ
出演 コジモ・レーガ/サルヴァトーレ・ストリアーノ/ジョヴァンニ・アルクーリ/アントニオ・フラスカ/フアン・ダリオ・ボネッティ/ロザリオ・マイオラナ
ナンバー 31
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
陰謀、裏切り、暗殺、そして破滅。シェイクスピアが描いた英雄の最期は、演じる男たちにとっては忌わしい記憶を呼び起こす。カネのため、復讐のため、欲望のため、一線を超えてしまった彼らには、信頼を仇で返す血ぬられた物語が己の過去とダブって見えるのだ。映画は服役中の重刑者たちに芝居という課題を与え、その活動を通して彼らの変化をとらえようと試みる。ハプニングなど起こらない、だが単調な生活に張りを持たせたい受刑者たちがいつしか役になりきっていく過程は、リアルと虚構の間をさまよっているかのような錯覚に陥ってしまう。
ローマ郊外の刑務所、恒例の演劇プログラムの演目に「ジュリアス・シーザー」が選ばれる。志願者は演出家によって、それぞれ哀しみと怒りを表現するオーディションを受け、役柄を振り分けられていく。
短い者でも刑期は14年、終身刑の者もいる。塀の中の変わりばえしない毎日に少しでも刺激を与えたいのだろう、不真面目な態度で稽古に臨む者は1人もいない。それどころか稽古場が改装で使えないと、各監房でセリフ合わせをし、廊下・中庭など刑務所内のあらゆる場所で稽古に励む。殺人から麻薬密売といった本来凶悪な犯罪で収監されている受刑者たちが何故これほどまでに芝居に熱中するのか。それはブルータスの苦悩やキャシアスの憎しみに自らの体験を重ね合わせたから。犯罪の世界と政治の世界、きれいごとでは生き残れない男たちの悲哀に共感したに違いない。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
本番は熱狂のうちに幕を閉じ、満場の客席から万雷の拍手を受ける。受刑者たちは自分の元気な姿を身内に見せることで気の遠くなる時間に希望を見出そうとする。家族たちは受刑者の健康と無事を確認して安堵する。しかし、舞台を降り、独房の扉が閉ざされたとき、受刑者たちはまた罪を購う日常に戻されていく。演劇を通じて外の空気に触れられるが、外には出られない。その残酷な現実が、彼らの犯した罪の重さを象徴していた。
オススメ度 ★★★