こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ビトレイヤー

otello2013-02-09

ビトレイヤー WELCOME TO THE PUNCH

監督 エラン・クリーヴィー
出演 ジェームズ・マカヴォイ/マーク・ストロング
ナンバー 29
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

夜景に浮かび上がるハイテク高層ビル。大きなバッグを背負ってバイクで逃走する統率のとれた強盗団。寒色を強調した映像に収められた冒頭の現金強奪シーンはクールでスタイリッシュだ。だが、その後の物語は、心身ともに傷ついた刑事と息子への愛情ゆえに怒りに燃える犯罪者の運命的な出会いと葛藤という、苦悩に満ちた情念。映画は、正反対の世界観を見事に融合させた上にミステリーのテイストを加え、より洗練されたエンタテインメントに昇華している。さらに銃規制の厳しい英国で原則丸腰の警察官は武装犯にどう立ち向かうのか、善悪を超越した命題をつきつける。

隠棲中の元強盗・スタンウッドは息子のヘマの後始末のためにロンドンに戻り、息子の消息を辿るうちに国際的警備会社の動きを突き止める。一方、かつてスタンウッドに屈辱を味あわされた刑事・マックスは彼の行方を追うが、行く先々で捜査に邪魔が入る。

逸る気持ちを抑えきれず失意の底に落とされたマックスと、高度な訓練を受けた“プロ”のスタンウッド。未熟な若造と老成したベテランの対決の構図は、いつしか彼らの因縁ごと巨大な陰謀のうねりに呑み込まれ、正体不明だが共通の敵と対峙せざるを得なくなった2人は仕方なく共闘関係を結ぶ。そして謎が謎を呼ぶスピーディな展開は彼らを、つまり観客を予想しないところに導いていく。裏切り者は誰なのか、上司や同僚は信用できるのか、殺し屋の真意と政治家の発言など様々な要素が攪拌され、一本の糸に収斂されていく過程は、張り巡らされた伏線と冷めたトーンの色調がインテリジェントな装いすら纏っていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

図らずも再びスタンウッドに命を救われたマックスは彼と行動を共にして、事の真相に迫っていく。復讐すべき相手に守られるマックス、自分を逮捕しようとする刑事に頼るしかないスタンウッド。憎しみがやがてほのかな友情に変わり、お互いに対するリスペクトすら生まれている。敵だったからこそ他人に言えない深層の部分で理解しあえる、そんな2人の微妙で奇妙な感情が爆発寸前まで膨張する緊張感が、孤独な男たちの心を象徴していた。

オススメ度 ★★★*

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