こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

愛、アムール

otello2013-02-15

愛、アムール AMOUR

監督 ミヒャエル・ハネケ
出演 ジャン=ルイ・トランティニャン/エマニュエル・リヴァ/イザベル・ユペール
ナンバー 35
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

穏やかな朝、いつもどおりにテーブルで会話していると妻の意識が飛ぶ。数十秒間、反応を示さなくなった彼女に夫はうろたえ、妻がその空白をまったく覚えていないことから、途方に暮れてしまう。突然襲ってきた認知症の徴侯、それが徐々に人格を奪っていくのを彼らも知っている。物語は老夫婦の日常を通じて、自我が失われていく不安と愛の本質を問うていく。ずっと寄り添ってやりたい夫。衰えていく自分を見せたくない、夫の負担になりたくない妻。骨に張り付き筋が立つ染みが浮いた肌、目を覆いたくなるような老醜をエマニュエル・リヴァがリアルに演じ切る。

かつてピアニストだったジョルジュとアンヌ。ある日、アンヌが異常を訴え入院、手術するが失敗し半身麻痺になって退院してくる。ひとりでは動けなくなったアンヌの面倒をジョルジュは献身的にみるが、アンヌは精神的にも退行し始める。

電動ベッド、車椅子、食事、トイレ、入浴。ジョルジュは病院を嫌うアンヌのために自宅アパートで介護する決意をする。だがジョルジュとて老いた身、肉体的にはきつい上、希望が見えてこない。アンヌを安心させてやりたいと願っても、悪夢にうなされるなど、深層心理ではいつまでこんな生活が続くのかとうんざりしている。ゆっくりと、しかし確実に喪われていくアンヌの心と体の健康。その過程でアンヌに向き合うジョルジュの真摯な姿を、カメラは時に1分を超える長まわしでとらえる。一見、冗長にも感じられるが、濃密に凝縮された感情が複雑に絡み合うシーンの連続は張りつめた緊張感に満ちていた。そして恐怖と言っていいほどの、ジョルジュの胸に去来する、決して改善されない未来への不透明感を饒舌に語る。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらにアンヌの病状は進行し、寝たきりになって水すら受け付けなくなる。もはや愛する妻ではない、ただの生ける肉塊。彼女の尊厳と、己を守るためにジョルジュは決断を下す。老いと死、映画はきれいごとでは済まされない現実をまっすぐに見つめ、答えのない問題を提起する。花に彩られたアンヌの安らかな表情だけが救いだった。。。

オススメ度 ★★★*

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