カルテット!人生のオペラハウス Quartet
監督 ダスティン・ホフマン
出演 マギー・スミス/トム・コートネイ/ビリー・コノリー/ポーリーン・コリンズ
ナンバー 40
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
貴族の屋敷と見まがう田園風景の中で威厳を保つレンガ造りの壮麗な建物。そこは引退した音楽家たちが余生を過ごす老人ホームだ。洗練された家具調度に囲まれ、医師と看護師が常に健康状態をチェックし、健やかで清潔な暮らしが保障されている。入居金や月々の支払いがいったいいくらになるのかと想像してしまう優雅な施設、入れるのは使いきれないほどカネを稼いだ成功した音楽家だけなのだ。だからこそ彼らはここでも音楽家であり続け、演奏と歌を日課にしている。映画は名プリマドンナが新たに入居することで起きるひと悶着を追う。
元オペラ歌手のウィルフ、レジー、シシーはかつて同じステージで「リゴレット」を演じた仲、今でもホーム内で親しくしている。ある日、ホームにレジーの元妻のジーンが入居してくる。彼女に深く傷つけられていたレジーはジーンを避ける。
折しも、財政難に苦しむホームは、資金集めのコンサートでジーンを加えた四重奏をハイライトにしようとする。ウィルフたちはあの手この手でジーンを誘うが、もはや歌に自信を無くしているジーンは頑なに断る。その過程でいかにジーンが人として常識はずれだったかが明らかになっていく。もともとアーティストとはわがままなもの、それが年を取ってさらに依怙地になっている。喜怒哀楽を歌にするオペラ歌手にとって、実生活でも感情に正直に生きるのが芸術的な才能でもあるのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
入居者全員の拍手で迎えられるなど、ジーンは並みの歌手とは格が違う大スターだったはず。ひとり個室で食事をとり、他の入居者とはあえて距離を置いて自身のカリスマ性を維持しようとする。そこは「現役時代の肩書やキャリアをひけらかさないのが老後を豊かにするコツ」という日本の老人ホームとは決定的に異なっていて、実は狭い人間関係に死ぬまで、いやきっと死んでからも縛られるだろう彼らの現実が興味深かった。
オススメ度 ★★★