こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

君と歩く世界

otello2013-03-01

君と歩く世界 De rouille et d'os

監督 ジャック・オディアール
出演 マリオン・コティヤール/マティアス・スーナールツ
ナンバー 49
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

同情なんていらない、対等に接してもらいたいだけ。愛なんかいらない、セックスと暴力の衝動を発散したいだけ。大けがを負って失意のどん底にいた女と、カネもないまま幼い息子と旅をするシングルファーザーは、引き寄せられるように出会い、魅かれあう。だが、映画は彼らの再生の物語に甘ったるい感傷は一切加えず、粗暴な中に優しさをしのばせ、怒りの中に希望を見出そうとする。予想もしない出来事に身を任せつつ与えられた環境で全力を尽くす、そんな主人公とヒロインの姿こそ未来を切り開いていく最良の方法であると教えられる。

子連れで南仏の町に流れてきたアリは姉の家に居候しながらガードマンの職を得、クラブでトラブルを起こした女性客・ステファニーを自宅まで送る。後に事故で膝から下を切断したステファニーはアリに連絡を取るが、いきなり海に連れ出すアリのぶっきらぼうな対応にかえって心が休まる。

格闘技が得意なアリは賭けファイトに出場、秒殺勝利を得る。試合を見ていたステファニーは、物事を深く考えず本能のまま肉体を駆使するアリのシンプルな生き方に、今まで味わった経験のない新鮮な驚きを覚える。セックスをせがんでも、アリは両足がないのをまったく気にしない。いつしかお互いの欠点を補いあうふたりは分かち難い絆で結ばれていく。その過程もロマンティックなシチュエーションとは無縁、裸の魂がぶつかる荒々しいまでの「生」の息吹を感じさせる演出は見る者をスクリーンにくぎ付けにする。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

もちろん現実を受け入れるまでには時間がかかった。それでもアリと知り会って以降のステファニーは以前よりずっと強かになっている。一方でアリはステファニーに対してセックス相手以上の感情は抱いていなかったが、彼女の呼出にはすぐに応じる上、格闘技のマネージャーとして頼るようになる。両足が欠損した女と、腕っ節は強いが無責任な男。めまぐるしく流転するふたり運命に凝縮された人生の真実、それは「今を生きろ」ということなのだ。

オススメ度 ★★★*

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