こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

横道世之介

otello2013-03-04

横道世之介

監督 沖田修一
出演 高良健吾/吉高由里子/池松壮亮/伊藤歩/綾野剛/朝倉あき/黒川芽以/柄本佑/佐津川愛美
ナンバー 52
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ずっと忘れていたのに、ふと脳裏をよぎる学生時代の一コマ。誰とでもすぐに打ち解ける人の好い憎めない男が必ず顔を出す。遠い過去になってしまったのに彼と過ごした時間の記憶だけは鮮明。楽しくておかしくて少し切ないけれど気が付くと吹き出している、そんな不思議な雰囲気をまとうまじめで親切でちょっとKYな主人公を高良健吾がキモカワイく好演、全身から発散する奇妙な空気にほっこりとした気持ちにさせられる。物語は日本がまだ豊かだった1980年代、上京したての大学生が、出会った人々に残した思い出を描く。若さゆえの無神経や不調法すら輝き未熟さが魅力に映るエピソードの数々が、失せ物を見つけたごとき懐かしさを抱かせてくれる。

大学に入学した世之助は人懐こい笑顔で早速友人を作り、年上の美女に憧れたりする。ある日、友人の紹介で知り合った金持ちの娘・祥子と意気投合、祥子は世之助に熱を上げ、いつしか世之助も彼女に魅かれ始めていく。

新宿駅前、大学のサークル活動、狭いアパート、アルバイト、そして恋。青春のきらめきに満ちた日々は美化されることなく、むしろ世之助のダサさや貧乏臭さを強調する。一方で、学生結婚して中退したカップルや友人のゲイ告白にも真摯に向き合う。それらのシーンには彼の持つ優しさが通奏低音として流れ、的外れな言動もユーモアでくるまれているため決して深刻にはならない。そのあたりの間の取り方が絶妙で、長いカットがじっくりと世之助の内面を覗きこんでいく。そこにあるのは他人に対する絶対的な思いやりなのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

後半、世之助の“現在”が伝えられた以降は、祥子との何気ない会話は、明るい内容であるほど映像は哀切を帯びて見える。それはもう彼はいないという喪失感。だが、祖母の葬式の帰りに“世之助のことを思い出すときっと笑う”と元恋人が言う。己の夢を追うよりも人を幸せにするために生まれてきたような世之助の生き方、人生そのものを考えさせる作品だった。

オススメ度 ★★★*

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