こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ラーメンより大切なもの 東池袋 大勝軒 50年の秘密

otello2013-04-24

ラーメンより大切なもの 東池袋 大勝軒 50年の秘密

監督 印南貴史
出演 山岸一雄
ナンバー 95
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

山盛りにされた麺とチャーシュー、初めて訪れた客は目を丸くしてボリュームに圧倒される。入口から延びる長い行列は2時間待ちが普通なのに、この店のラーメンを食べたいファンは途切れることはない。映画はかつて東京・東池袋にあったラーメン屋・大勝軒とオーナーに密着し、魅力を探る。決してキレイとはいえない店内、味の評判も抜群というわけではない。それでも人々が吸い寄せられるのはなぜか。いつも笑顔の飾らない店主の人柄、数カ月修行しただけの弟子にも“大勝軒”の屋号の使用を認める鷹揚さ、そして亡き妻への秘めた思い。大勝軒のラーメンには彼の人柄が反映されているようだった。

2001年、すでに“行列のできるラーメン屋”として名をはせていた大勝軒。67歳になった店主の山岸は毎朝4時に起き仕込みをはじめる。スープも麺も自家製、11時の開店と同時に満席になり、4時間の営業時間内で200食を完売する。

カメラは厨房の奥に“開かずの間”を見つける。そこには山岸が封印した妻の記憶が詰まっている。ところがディレクターが部屋の話に触れると、温厚な山岸の表情が一変、それ以上踏み込めないほど険悪な雰囲気になる。10数年前に胃がんで急逝した妻とのなれ初めなどの思い出は気軽に口にしていたのに、“開かずの間”には神経質になる。妻をすごく愛していたはず、しかしラーメン作りに夢中で、あまり大切にしてやれなかった後悔と贖罪の念が山岸の中にあったからではないだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて膝関節の悪化、静脈瘤といった持病から厨房に立てなくなり、2007年に店をたたむ決意をする。店の取り壊しに際し弟子たちの手によってやっと“開かずの間”の扉が開けられる。さらに使われていなかった2階の部屋から出てきた大量の遺品。山岸の時間は妻が死んだ時のまま止まっている、その悲しみを忘れるために彼はラーメン道にまい進してきたのだ。山岸の不器用だが一途な愛が、油で汚れた猫の絵がきれいに復元されているシーンに象徴されていた。

オススメ度 ★★★

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