こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

コン・ティキ

otello2013-04-26

コン・ティキ KON TIKI

監督 ヨアヒム・ローニング/エスペン・サンドベリ
出演 ポール・スベーレ・バルハイム・ハーゲン/アンダース・バースモー・クリスチャンセン/ヤコブ・オフテブロ/トビアス・サンテルマン/オッド・マグナス・ウィリアムソン
ナンバー 98
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

風と海流、太陽と星を頼りに大海原に旅立った1艘のいかだ。丸太と竹を麻縄で結んだ簡単な構造で金属は一切使わず組み立てられている。主人公とクルーはその粗末な乗り物で1500年前のはるかな祖先の航路をたどる。そして、己の仮説を実証するための命がけの冒険、誰もが不可能と思ったチャレンジは予想もしない発見と仲間との友情を育んでいく。映画はポリネシア人南米渡来説に固執するトール・ヘイエルダールの航海を再現、苦難を克服する知恵と、己を信じて突き進む勇気を描く。肉食のサメが泳ぐ海の恐怖、サメを手づかみで捕まえる狂気。狭いいかだでの共同生活が人間関係にひびを入れるシーンがリアルな緊張感を生む。

ポリネシア文明とインカ文明の類似点に注目したトールは、ポリネシア人が南米人の末裔という自説を発表するが世間から相手にされない。ならば、大昔の材料のみで作ったいかだでも太平洋を西進できると自ら実験台になって出発する。

精巧ないかだを組み立てる技術や、風や海流をつかむ知識があるわけではない。そもそも経験がある人間ほどこんな計画に参加しない。ある種の無謀さ、自分を変えたい願望、名を上げたい野心。そうした未来に目を向ける進取の精神だけがトールたちの財産だ。出港時、乗組員6人全員がスーツにネクタイの改まった服装をしているあたり時代を感じさせるが、それは新たな挑戦への期待と希望の証。一方で、ほとんど何もすることがない洋上ではみな精神的に追い詰められていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

サメが泳ぐ海に落ちたクルーを元兵士の男が危険を顧みず助ける姿を含め、エモーショナルな盛り上がりを強調するような演出はせず、物語はあくまで淡々と彼らの日々を追う。それでも夜の海で出会った発光魚や無数の星空は美しさにあふれ、どこまでも続く水平線と容赦なく照りつける太陽は厳しさを示す。そんな人知の及ばぬ自然の大きさを体感させる映像こそ、トールたちの感情を追体験させてくれるのだ。

オススメ度 ★★★*

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