こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

非金属の夜

otello2013-05-24

非金属の夜

監督 中田圭
出演 塚本愛梨/秋山真太郎/舩木壱輝/佐藤永典/水崎綾女/千葉美裸
ナンバー 116
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

何のために生まれてきたのか、何をすればいいのか。生きる意義を見つけられずにただ日々を投げやりに送る女の目には、世界はモノクロにしか見えない。他者とのかかわりを避け、孤独がむしろ心地よいほど心は覚めている。夢を抱いても失望する、求めても拒絶される、そこにあるのは圧倒的な人生に対する諦観。だが、本当は寂しいのに壁を作ってしまい、笑いたいのに不機嫌な顔をしているに違いない。映画は、そんなヒロインが図らずも感情に素直になったのをきっかけに起きる出来事を描く。夜も眠らない街・渋谷、大勢が行き交うのに1本の絆すら結べない哀しさが胸にしみる。

無為な時間を持て余すナツは美月に声をかけられ、そのまま朝まで一緒に過ごす。その後、美月が自殺したと聞いたナツは彼女の人となりを調べるが、詳しく覚えている者はいない。愕然とする中、公衆トイレでチンピラが置き忘れた拳銃を拾う。

「付き合ってくれてありがとう」。美月は別れ際にナツにそう言った。感謝されるとうれしい、ナツは彼女のお礼に少しは役に立てると感じる。ところが、前を向こうとした矢先に知った美月の死。そして美月の友人のようにふるまっていた若者たちが彼女をほとんど気にもかけていない現実。ナツの、自分は誰にも認識されていないだろうという怒りにも似た思いが、表面だけを取り繕った渋谷に生息する人々に向い、拳銃を手に入れた彼女を暴走させる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方、夜な夜なチンピラとケンカをしては自身を傷つける男も、発砲するナツと出会って、死の願望を叶えてくれると思い込む。拳銃を探すやくざもナツを追う。拳銃のおかげで、男たちに哀願されるナツ。おそらく他人にこれほどまでに強い影響力を持った経験はなかったはず。たとえこんなことでも己の存在価値が得られれば、過去にも未来にも意味があったと思えるのだ。色彩を持ったナツの自分探しはまだ始まったばかり、ほんのわずかな希望が救いをもたらしていた。

オススメ度 ★★*

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