こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

はじまりのみち

otello2013-05-29

はじまりのみち

監督 原恵一
出演 加瀬亮/田中裕子/ユースケ・サンタマリア/濱田岳
ナンバー 118
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

細く険しい山道、母を乗せたリヤカーを黙々と引く息子。慣れない重労働に足は重く、おまけに激しい雨が降ってくる。だが、疲れ果てても決して歩みを止めようとはしない。それは、自分をいちばん愛してくれたひとのためだから。物語は家族や人間同士の絆と情愛を題材にした作品で巨匠と呼ばれるまでになった木下恵介が、若き日に重病の母を移送した短い旅を通じて、母親に対する子の気持ちを描く。母を安全な場所に移したい、言葉ではなく断固とした行動で示す彼の姿に、孝行とは何かを教えられた気がする。

大東亜戦争末期、軍部に睨まれたせいで映画が撮れなくなった木下は、撮影所を飛び出し故郷に帰る。しかし、そこも空襲の危険が迫り山奥の村に疎開することになる。木下は脳溢血で寝たきりの母をリヤカーで運ぶと言い出し、兄と便利屋とともに出発する。

便利屋に扮した浜田岳の饒舌な芸達者ぶりが湿っぽい展開にコミカルなテイストをもたらす。カレーライスやシラスのかき揚げ、ビールなどをうまそうに口に運び味わうフリは落語の名人芸を見ているよう。娘たちの前ではお調子者を演じて嬌声を誘い、一方で木下が辞表を出したきっかけになった映画「陸軍」の狙いを誰よりも理解している。戦争という大きなうねりの中に身を置きながらも、人生を精一杯楽しんで生きている。育ちの良さゆえに敗色濃厚の日本の現状に危惧を抱き憂鬱さを隠しきれない木下兄弟に対し、無名の庶民の強さとしたたかさがこの便利屋のキャラクターに凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ただ、木下作品の引用が長すぎる。便利屋が「陸軍」に言及すると、そのラストに近いシーンを延々挿入するが、原恵一監督も映画作家ならば、木下の意図を咀嚼して自分なりの解釈を加えて映像化すべきではないだろうか。また、エンディングでも木下作品の名場面集が何分も続く。原監督の木下恵介への深い敬愛の念は伝わってくるが、その思いをオリジナルの映像で表現してほしかった。

オススメ度 ★★*

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