こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

最愛の大地

otello2013-06-08

最愛の大地 IN THE LAND OF BLOOD AND HONEY

監督 アンジェリーナ・ジョリー
出演 ザナ・マルジャノヴッチ/ゴラン・コスティック/ラデ・シェルベッジア
ナンバー 137
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

愛した男は敵となり同胞の虐殺を指揮する。愛した女は捕虜となり部下の慰みモノにされようとしている。突然の戦乱、平和で穏やかだった日常は暴力と憎悪と恐怖に血塗られていく。物語は1990年代前半、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景に、敵味方に引き裂かれたひとつの愛の行方を追う。ふたりとも民族の血を捨てられない一方、愛にはすがろうとする。命ある限り希望はあると信じたい、だが、その先に待ち受けるのは哀しみと絶望、そして死。映画は泥沼の内戦の悲惨な実態を、一般市民の視点から描く。

画家を目指すムスリム系のアイラはセルビア人の警官・ダニエルとのデート中に爆弾テロに遭う。4カ月後、セルビア軍のムスリム系住民に対する弾圧が始まり、アイラは他の若い女たちと収容所に送られ、そこで将校になったダニエルと再会する。

セルビア兵の身の回りの世話のみならず、夜毎レイプされるムスリムの女たち。ダニエルはアイラを保護し、時に抱く。しかし、もはや愛し合う歓びはない。ふたりとも今日一日生き延びた安堵があるだけ。硬い表情を少し和らげるアイラ、冷たい視線のままのダニエル。体は反応しても心は覚めたまま、お互いに信用しきれない部分がしこりとなって残る。それでも相手の無事を願う気持ちも強い。カメラはそんな複雑で繊細で矛盾した彼らの感情を鋭く抉り出していく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ダニエルの手引きで一度は収容所を脱走したアイラだが、姉の子の死に憎しみを募らせ、今度はスパイとしてダニエルの下に送り込まれる。開戦直後はムスリム迫害を躊躇していたダニエルも、順調に昇進しているところを見るとたくさんのムスリムを殺し手柄を立てているのだろう。再び燃え上がるふたりの思いとアイラの秘めた決意。もう過去に戻れないことは分かっている。ダニエルが裸のアイラとダンスするシーンが、未来のないこの愛の切なさを象徴していた。

オススメ度 ★★★*

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