こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

箱入り息子の恋

otello2013-06-10

箱入り息子の恋

監督 市井昌秀
出演 星野源/夏帆/平泉成/森山良子/穂のか/俊太郎/竹内都子/古舘寛治/大杉漣/黒木瞳
ナンバー 140
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

甘辛く煮たつゆがしみ込んだ牛肉とごはんを口にする。かみしめるたびに豊かなコクと懐かしい味わいが胸の奥まで広がり、引き裂かれた恋の記憶を甦らせる。彼の顔は知らない、でも柔らかな手の感触と誠実な人柄がにじみ出た話し方は決して忘れない。楽しくてうれしくてときめいた日々を思い出す彼女、視力を失った目でも涙はとめどなく流れ落ちる。物語は真面目が取り柄の男が視覚障害の女と出会い、ふたりの間に愛が芽生えていく過程を描く。彼女は外見で判断しない、自分に興味を持ってくれた女性を大切にしたい、そうした感情が受け身だった主人公の生き方を変えていく。1杯の牛丼がこれほど哀しく切ない映画があっただろうか。

自宅と勤務先を往復するだけの健太郎の将来を心配した両親は結婚相談所に登録、そこで奈穂子の両親と知り合う。後日健太郎と奈穂子は正式に見合いするが、親同士が大喧嘩になって破談、だが奈穂子は母の協力で健太郎に会いに行く。

うまく話せない上、初デートのランチに吉野家に連れていくという健太郎のセンスのなさは、かえって奈穂子には新鮮に映る。そんな奈穂子に健太郎はいつしか夢中になっている。水槽のカエルに象徴される見えない壁に囲まれた安全な場所にこもっていた健太郎が、初めて心に情熱を灯すぎこちなくも真剣な姿が微笑ましくも愛おしい。たっぷりと余白を取ったカットは寡黙な健太郎のとまどいや苛立ちを饒舌に語り、彼の助走期間の長さを表現していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

親同士がお膳立てして親同士が別れさせても、健太郎の気持ちは募るばかり。与えられ守られることに慣れていた奈穂子もひとりで街を歩き、気づかれないように見守る健太郎に決心を促す。そしてゴロゴロとのどを鳴らすようなカエルの声が巧みな伏線となってふたりの未来を予感させる。誰かを思いその人から思われる、それこそ人生の素晴らしさであり、必死でを伝えようとすれば思いは必ず届くと信じさせてくれる作品だった。

オススメ度 ★★★★

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