こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

奇跡のリンゴ

otello2013-06-11

奇跡のリンゴ

監督 中村義洋
出演 阿部サダヲ/菅野美穂/池内博之/笹野高史/伊武雅刀/原田美枝子/山崎努
ナンバー 141
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

電気は止められ夜はランプの灯りのみ、日々の食事にも事欠き、小学生の娘に消しゴムも買ってやれない。それほどの極貧生活を強いられても夢をあきらめない。無農薬のリンゴを作る、その思いに憑りつかれた男はあらゆる苦難をものともせず、ひたすら試行錯誤を繰り返す。映画は農薬アレルギーの妻のために11年の歳月を費やして無農薬リンゴの商品化に成功した彼の波乱の半生を追う。一度没頭すると答えが見つかるまでやめない、一方で笑いを大切にしていたのにいつしか顔が険しくなっている、そんな感情の起伏が激しい主人公を阿部サダヲがいつものようにハイテンションに演じる。岩木山の麓に広がるリンゴ畑、一面に咲き誇る白い花から実りを迎えるまでの季節の移ろいをとらえた映像が美しい。

機械いじりが好きな秋則はリンゴ農家の一人娘・美栄子と結婚、跡継ぎになる。秋則は農薬散布のたびに美栄子が体調を崩すのを見て化学薬品に頼らないリンゴ栽培を決意、実行に移すが、ことごとく失敗。やがて収入もなくなり、村人からも白い目で見られ始める。

わさび、酢、ニンニク・・・。そういった天然由来の成分で害虫や病気を防ごうとするが、一向に効果は現れず、虫が付き葉は枯れるばかり。だが美栄子も義父も文句ひとつ言わず秋則を見守っている。もはや一家は村の厄介ものになっていて、もちろん秋則たちも知っている。それでも借金を重ねて挑戦し続ける。子供の時に“決してあきらめるな”と秋則にアドバイスした母でさえ“あきらめることも教えるべきだった”と愚痴を垂れるほど頑固な秋則。なぜなら秋則にとって無農薬を諦めるのは美栄子を見殺しにするのと同じ、実験結果を詳細に記録したノートを美栄子が見つけるシーンに夫婦の深い愛情が凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

家庭を省みないようで、美栄子への愛は誰よりも深い。美栄子も貧乏暮しをどこか楽しんでいるような節もあり、3人の娘たちも秋則の気持ちは理解している。くじけそうになった時、最後に支えになるのは家族だとこの作品は示してくれる。

オススメ度 ★★*

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