こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ワールド・ウォー Z 

otello2013-07-01

ワールド・ウォー Z WORLD WAR Z

監督 マーク・フォースター
出演 ブラッド・ピット/ミレイユ・イーノス/ ジェームズ・バッジ・デール/ダニエラ・ケルテス/デヴィッド・モース/ファナ・モコエナ
ナンバー 160
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

エイリアンの襲来か巨大生物の出現か、大渋滞の先頭でとんでもないことが起きている。突然の爆発と大型トラックの暴走、逃げ惑う老若男女。恐怖と不安、衝撃と緊迫に満ちたプロローグに、一気にスクリーンに引きずり込まれた。もはや夢遊病漢患者のような緩慢な動きではなく、全速力で迫りくるゾンビの群れ。その数と密度とスピードは、まるで津波が押し寄せるかのような圧倒的な奔流となって群衆を飲み込んでいく。物語はそんな状況から人類を救うために冒険の旅に出た主人公の戦いを描く。危機また危機、過去のゾンビ映画を10倍濃縮にした疾走感あふれる展開の中で、追い詰められた人々の感情がリアルに再現される。

世界中でゾンビが大量発生、米国内にも蔓延する中、元国連職員のジェリーは家族とともに空母に避難する。そこで調査員としての腕を見込まれたジェリーは原因究明を託され、韓国の米軍基地に飛び、諜報員からイスラエルがすでに対策を講じていたと聞かされる。

パレスチナ自治区との境界をはるかにしのぐ高さの壁をわずか数日で築き、エルサレムを保護したモサド局員のセリフが印象的だ。「9人までが楽観的な結論を出したら10人目は必ず反対意見を言う」。ホロコースト中東戦争で最悪の事態を予測しなかった結果大きな犠牲を出した反省から生まれた、常に警戒感を持ち続けなければ生き残れないユダヤ人国家の処世訓は、そのままアベノミクスに浮かれる今の日本にも通用しそうな言葉だ。そしてエルサレムの安全が異教徒によって破られる皮肉は、集団が絶体絶命のピンチに陥った時は価値観の違う少数派は排除したほうがよいという教訓となっている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

いかに繁栄を誇る現代でも、高度に進化した感染性の病原体が発現すれば数日で崩壊してしまう。映画は文明の脆弱性に警鐘を鳴らすとともに、それでも人間の叡智はあきらめずに何らかの対処法を発見しようとする希望も残す。逃げ場のない絶望、愛する者を失った喪失や葛藤、そういったゾンビ映画の地平からさらに一歩先に踏み込んだ作品だった。

オススメ度 ★★★

↓公式サイト↓