熱波 TABU
監督 ミゲル・ゴメス
出演 テレサ・マドルーガ/ラウラ・ソヴェラル/アナ・モレイラ/カルロト・コッタ/エンリケ・エスピリト・サント/イザベル・カルドーゾ
ナンバー 150
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
ワガママでひがみっぽく、被害妄想まで抱えている。疑り深く口は悪く、そのくせ寂しさは隠さない。もはや老い先短い命、老婆は決して周囲の人間に好かれようとはせず自分の思い通りに振る舞おうとする。物語は、そんな老婆の最期の数日を、まっとうに暮らそうとする隣人の目を通じて描く。メイドや隣人に迷惑ばかりかけているが、反省の色は全くない。それでも、彼女の人生の中にもただ一度すべてを投げ打つほど心を燃え上がらせた恋があった。叶わなかった願い、伝えられなかった思い。たった1年にも満たなかったけれど、もっとも輝いた時間。遠い過去の映画を見ている気分になるモノクロ・スタンダードサイズの映像がノスタルジックな味わいを残す。
留学生のホームステイや来客の準備に忙しいピラールは、アパートの隣の部屋でメイドと暮らす老女・アウロラの面倒も時々みる。ある日、アウロラが卒倒して入院、死期を悟った彼女はベントゥーラという男を探してくれとピラールに頼む。
老人ホームにいたベントゥーラを連れ戻したときにはすでにアウロラに息はなく、ベントゥーラはピラールたちにアウロラとの日々を語り始める。植民地時代末期のポルトガル領アフリカ、19世紀から時が止まったようなコロニアル風の邸宅と黒人使用人に身の回りの世話をさせる裕福な白人たち。ここからはセリフを廃し映像と登場人物のモノローグだけ、サイレント映画のスタイルになる。いまだ“流れ者”の存在が許されていた時代の空気を濃密に再現していた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
女ならほかにいくらでもいたはず、だがベントゥーラはこの地で純粋培養されたアウロラに儚さを感じた。夫と故郷に縛られてきたアウロラは、ベントゥーラにここではないどこか連れて行ってもらえると期待した。密会を重ねるうちに分かちがたい情熱にがんじがらめになるふたり。不倫だからこそ抑えきれない愛、陳腐ではあるが切なく哀しい、それが彼らにとって確かに生きた証なのだ。
オススメ度 ★★*