こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

悪いやつら

otello2013-07-31

悪いやつら

監督 ユン・ジョンビン
出演 チェ・ミンシク/ハ・ジョンウ/チョ・ジンウン/マ・ドンソク/クァク・トウォン/キム・ソンキュン
ナンバー 166
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

暴力団、検事、民間人…。同じ姓、同じ出身地ならどこかでつながっている。そして目上の者には頭が上がらない。韓国の伝統的な血縁社会で身内の係累を最大限に活用する男。度胸も腕っ節もないが他人の歓心を買う才能には恵まれた彼は、やがてボスをしのぐほどの力を蓄えていく。映画はしがない公務員から裏社会を仕切るまでになった半グレ中年男の半生を描く。大胆だが小心、媚を売るけれど虚勢も張る、ケンカは弱いが利に聡い。暴力がはびこり陰謀が渦巻く世界で、人脈を武器に仁義よりも実利を選ぶ彼はヒーローとは対極。見苦しさすら人間的な主人公をチェ・ミンシクがリアルな感情表現で演じる。

大量の覚醒剤ネコババした税関吏のイクヒョンは新興組織のボス・ヒョンベに転売、ヒョンベが遠縁の親戚と知ったイクヒョンは彼の元に出入りするようになる。ある日、旧知のクラブオーナーから相談を受け、キムの組織の縄張りと知った上で介入する。

自分のほうがヒョンベより上の世代と知ったイクヒョンは急にヒョンベに礼節を求め態度がでかくなる。1980年代でも儒教道徳に基づいた大家族制度が健在だったのだろう。一族は助け合うものという暗黙の掟は、時に法に優先し逮捕された彼らをたびたび救う。特にベテラン検事とイクヒョンの関係は、つい20年ほど前までは前近代的な悪習が根付いていたことを物語る。大統領直々の犯罪組織撲滅命令はそんな封建制の悪しき名残を一掃する機会でもあったのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後カジノ経営でヒョンベと意見が食い違ったイクヒョンは密かにキムと手を組む。家系図を背景にヒョンベに取り入ったのに、利害が対立すると寝返るイクヒョン。極道としてのプライドがないがゆえに己の欲望に忠実になれる。さらに取り締まりが厳しくなると、組織の構成員ではない立場を利用して警察と取引する。しがらみを断ち切ったからこそ生き残れたイクヒョンの生き方は、過当競争社会となった21世紀の韓国を先取りしていた。つまりこの作品は、有力者とのコネがあれば何とかなった民主化以前の時代へのノスタルジーなのだ。

オススメ度 ★★★

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