こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

楽園からの旅人 

otello2013-08-01

楽園からの旅人 Il villaggio di cartone

監督 エルマンノ・オルミ
出演 マイケル・ロンズデール
ナンバー 131
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“善行は信仰に勝る”。生涯を通じて祈りを捧げてきた男は、その思いが決して届かないと悟り、神に頼るのではなく己の意思と責任で実行する道を選ぶ。礼拝堂の天井近くにつるされたキリスト像が撤去された時の絶望、そして神ではなく難民という人間が与えてくれた希望。きっと彼はあらゆる出来事が“神の御心”と決め付けて思考を放棄し難事に立ち向かうのを避けてきたのだろう。やっと教会の重石から解放され、いかに振る舞うべきかに目覚めていく。物語は閉鎖される教会の司祭がアフリカ難民を匿う過程で、勇気とは何かを問う。

信者数の減少で廃止が決まった教会、業者が絵画や美術品を運び出してしまい、建物が取り壊されると居場所も行き場もない司祭は悲嘆に暮れている。その夜、十数人のアフリカ難民が礼拝堂に避難してくる。

事情を察した司祭は空になった礼拝堂を彼らに提供するが、もてなす準備がないと心を痛めている。難民の中にはけが人や妊婦もいる。おそらく彼にとって腹をくくって違法行為に手を貸すのは初めての経験だったはずなのに、当局の捜査を頑として拒む。一方でアフリカ人の中には単なる就労目的の者以外に、大量のダイナマイトを隠し持つテロリストや異教徒もいる。ところが、司祭は彼らを守ることで自分の声に耳を貸さなかったキリスト教の神に意趣返しをするのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

ブローカーが現れ、フランス行きの船に乗る者、あきらめてアフリカに戻る者、難民の身の振り方はそれぞれだが、司祭は特に支援するでもなく見守る。そこには神に仕えた身であった過去よりも、ひとりの人間として自らの良心にかなう行動を取った者の姿があるのみ。もしかしたら彼らの命を危険にさらしただけかもしれない、爆弾テロの犯人を野放しにしたのかもしれない、だが受け身だった司祭の人生は確実に前を向くようになっている。明るい未来ではないかもしれない、それでも立ち止まっているよりはましだと寡黙なこの作品は訴えているようだった。

オススメ度 ★★*

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