こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

黒いスーツを着た男

otello2013-08-02

黒いスーツを着た男

監督 カトリーヌ・コルシニ
出演 ラファエル・ペルソナ/クロチルド・エム/アルタ・ドブロシ
ナンバー 189
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

取り返しのないことをしてしまった男。放っておけなった女。悲しみの中で手をこまねいてる妻。一つの交通事故が3人の人生を交錯させ、彼らの苦悩を掘り下げていく。物語は、加害者と目撃者そして被害者の妻のバックグラウンドのディテールに踏み込み、人間の良心の在りかたのみならず、3つの階層が抱える社会問題をあぶりだす。成り上がりの労働者、インテリの小市民、市民権を制限された不法就労者、彼らがみな特別ではなく、どの立場に置かれたとしても共感を得られる人間であるという設定が、観客に問いかける。あなたならどうするかと。

社長令嬢との結婚を控えたアルは労働者をひき逃げ、現場近くのアパートで事故を目撃したジュリエットは被害者の身元を調べ妻のヴェラに連絡する。被害者の様子を密かに見にいったアルはジュリエットに気づかれてしまう。

自首を同僚に止められたアルはせめて見舞金を渡そうと金策に走り回り、ジュリエットに仲介を頼む。その過程で、結局自分の周りにいる人々は誰も親身になってくれないと知る。一方で胸の内を打ち明けられたジュリエットはアルに協力しヴェラの信用を失う。このあたり、無責任にも無関心にも強欲にもなれない彼らの、人間としての理性と節度だけでなく弱さまで克明に描きこまれ、映画はある意味平凡な彼らの感情が、予想もしない展開に発展していく非凡さを見せる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

アルがもっと小心な悪党だったら蔑んだだろう。ジュリエットがもっと計算高かったら敬遠できただろう。ヴェラがもっとカネに執着していたら見下しただろう。だが3人とも気持ちをコントロールして、よき人間である部分を捨てようとはしない。それは憎しみからは何も生まれないのを知っているから。未来は決して明るくない。それでも法による罰ではなく自ら贖罪の旅に出るアルの姿に、この出会いが残した記憶が、きっと彼らの糧になると思わせる作品だった。

オススメ度 ★★★*

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