上京ものがたり
監督 森岡利行
出演 北乃きい/池松壮亮/瀬戸朝香/谷花音/木村文乃/黒沢あすか/岸部一徳/西原理恵子
ナンバー 208
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
自分には特別な才能がある、そう思い込んで故郷を後にした女子大生。だが、東京での生活はシビアで、バイトに明け暮れる毎日が待っている。描いても描いても絵は認められない、転がり込んできた男とはずるずると別れられない、物語はそんな美大生のうだつの上がらない日常を追う。壮大な夢よりも目の前の現実、己の表現したいアートよりも編集者が求めるカット、そして何より生まれついてのセンスよりもあきらめずに努力を継続できる能力こそが“才能”であると、彼女は身を以て示そうとする。“最下位には最下位の戦い方がある”という言葉に象徴されるように、人生とは日々戦いなのだ。
東京の美大に入学した菜都美は万年ビリの成績にもめげずデッサンを続けている。ある日バイト先のャバクラで先輩キャバ嬢・吹雪の娘・沙希と知り合い絵を気に入ってもらう。自信をつけた菜都美は出版社に売り込みにいくが、ことごとく断られる。
一方、プータローの良介と同棲する菜都美。時に彼の優しさに癒されるが向上心のなさに苛立っている。カネよりも大切なことがあると良介は諭すが、絵で生計を立てようとする菜都美は“稼いでこそプロ”と、カネの重要性を主張する。エロ小説誌にイラストが採用されたり青年誌の連載を打ち切られたり、作品を売って報酬を得る厳しさを叩き込まれた菜都美は、同時に生きていくためには何をすべきかを学んでいく。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ただ、菜都美の心理的な葛藤や創作の苦悩がほとんど省かれているのが残念。エロ小説のイラストには、キャバクラでの下ネタトークや良介とのセックス体験が生かされているはずなのに、具体的なエピソードとして結実せず、吹雪母子との関わりもきれいごとの域を出ていない。彼らとの付き合いの中で菜都美は人間の深い業を見聞きしているのだから、もっとその部分を前面に出してほしかった。ほろ苦い青春の思い出にも昇華されず、共感を呼ぶ笑いや切なさにも乏しい作品だった。
オススメ度 ★★