こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

THE ICEMAN 氷の処刑人

otello2013-08-27

THE ICEMAN 氷の処刑人

監督 アリエル・ブロメン
出演 マイケル・シャノン/ウィノナ・ライダー/レイ・リオッタ/クリス・エバンス/デビッド・シュワイマー
ナンバー 204
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

好きな女を口説くときも、ケンカを売られたときも、子供が生まれたときも、顔に銃を突き付けられたときも、男はほとんど表情を変えない。胸中に湧いた喜怒哀楽を表現する術を知らないのか、深い眼窩の奥から冷たい視線を放つだけ。少年時代に受けた虐待が原因で心を封印する生き方を学んだのだろう、一方で家族をいちばん大切に思っていると口にする。物語は妻子への愛情以外の感情が欠落した彼の約20年にもわたる二重生活を描く。家庭では良き父で有能なビジネスマン、裏社会では腕利きの殺し屋。それらを巧みに演じ分けているのではなく、“情熱のなさ”を貫いて家族を欺く。主人公に扮したマイケル・シャノンが狂気と正気の境界線で綱渡りをするような演技を見せる。

ポルノ映画の不法ダビング屋・リッチーは、地回りのボス・ロイに冷酷な性格を見込まれて殺し屋になる。妻のデボラには為替ディーラーと偽り稼いだ大金で豪邸を買ったりするが、ある仕事で目撃者の少女を逃がしたためにロイから引退勧告される。

カネに困ったリッチーは、フリージーという死体を冷凍保存する殺し屋と手を組み、フリーのヒットマンとなって着実に実績を積んでいく。その過程で、服役中の弟との面会でして己の体にも破綻した人間の血が流れていることを思い出したリッチーは、運転中にブチ切れる。反面、デボラの気持ちに応えられない自分にいら立ったりする。デボラに“どうでもいいような態度”と言われるが、わが身に対する無関心が彼から恐怖や不安を取り除き、殺人マシーンとしての機能を高めている皮肉が効いている。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

だが、ロイの耳に入り、リッチーとフリージーは追い詰められていく。フリージーは窮地を脱するためにお互いの家族の交換殺人を持ちかけるが、生き延びるためには何でもするあまりにも自己チューな彼らのメンタリティは滑稽ですらあった。そして決して踏み込めないリッチーの闇、「愛」の概念を頭では理解していても本質に触れた経験のない彼の孤独がリアルに再現されていた。

オススメ度 ★★★

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