こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サカサマのパテマ

otello2013-08-29

サカサマのパテマ

監督 吉浦康裕
出演 藤井ゆきよ/岡本信彦/大畑伸太郎/ふくまつ進紗/加藤将之
ナンバー 206
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

「その手を離さないで!」重力が反転した場所から来た少女は“上”に向かって落下する。空を忌み嫌う社会では暮らす少年は、彼女に宙高く引きあげられ、自分たちがちっぽけな土地に住んでいたことを知る。物語は、生活も思想も厳しく統制された国の少年が、地下から地上に“落ちてきた”少女と出会い、世界の真実を暴いていく姿を描く。本来、自由意思の象徴であるはずの透き通った青空は、少年が通う学校では不吉なものであり、少女にとっては底なしの虚無。重力が働く方向が正反対でも、空をタブー視する発想は共通。信じていたものは存在するのか、教えられた歴史や価値観は正しいのか。映画はふたりの冒険を通じて、既成概念を疑えと訴える。

飛行船実験で消息を絶った父を持つアゴラ国の少年・エイジは、立ち入り禁止地区で地下都市の少女・パテマを助ける。ふたりはパテマの力を利用して逃走するが、パテマは警察に捕まってしまう。

地に足がつかない、というかアゴラ国には足をつける地がないパテマ。建物の天井が唯一安心して休める所で、屋外ではエイジにしがみついているしかない。最初は手首をつかんでいるだけだったのが、やがて大空に憧れる気持ちを理解し合い信頼を築くと、お互いの上半身を抱きしめる姿勢を取り始める。もちろんまだ大人と闘う力はなく逃げるのみ。脱走したふたりが天高く上昇し星空に吸い込まれて行くシーンには、荘厳な美しさと、この世の限界を見せられるような切なさに胸を締め付けられた。そして、エイジが地下都市でパテマと同じ不安を体験する場面は、相手の立場でものを考える大切さが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映像は、パテマの主観とエイジの主観が入れ替わるたびに天地がひっくり返る。目くるめく感覚は乗り物酔いにも似た酩酊感で、この作品の世界観がリアルに再現されていた。ただ、「アップサイドダウン 重力の恋人」のほうが先に公開されたせいで、その新鮮さが薄れてしまったのは惜しい。

オススメ度 ★★*

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