こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ふたりのアトリエ ある彫刻家とモデル

otello2013-09-19

ふたりのアトリエ ある彫刻家とモデル El artista y la modelo

監督 フェルナンド・トルエバ
出演 ジャン・ロシュフォール/アイーダ・フォルチ/クラウディア・カルディナーレ
ナンバー 212
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

程よく肉が付いた丸い腰、つんと上を向いた豊かな胸、そして挑むような鋭い視線。若々しい魅力を凝縮した彼女の肉体はたちまち老彫刻家の心に火をつけ、いつしかモデルとアーティストという立場を超えて忘れえぬ絆を結んでいく。ドイツ占領下の南フランス、戦争中とはいえ殺し合いとは距離を置いた生活をしていた男には、女は世間に開かれた窓。彼女を受け入れて彼もまた戦争とかかわらざるを得なくなる。映画はそんなふたりの出会いと別れを通じて人生と芸術の関係を描く。ヒロインを演じたアイーダ・フォルチの黒々としたわき毛と密生した陰毛、現代ではムダ毛と呼ばれる体毛が生命の息吹を発散させていた。

隠居暮らしを送る彫刻家のクロスはスペインの収容所から脱走してきたメルセを引き取り、モデルとして雇う。メルセの瑞々しいボディに魅せられたクロスは日々彼女のヌードをデッサンし、写生し、塑像の制作に励む。

もちろんクロスにとって、メルセは単なるモデルで恋愛や性の対象ではない。ところが彼女がレジスタンスの若者・ピエールを匿おうとしたことから、クロスにほのかな嫉妬心が芽生える。むしろナチスの美術史家と交友するなど戦いを避けてきたクロスには、若いふたりの面倒を見るのは愛国心を試される場面でもある。それは彼が忘れていた情熱、創作に対する熱意以上に、生きる意欲なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがてピエールのために命がけの任務を果たしたメルセへの気持ちを、クロスは抑えきれなくなる。インスピレーションの邪魔をして集中力は削がれていくが、彼の苛立ちを見抜いた妻が理解を示すあたり、彼女の懐の大きさを物語る。メルセもまたクロスの苦悩に気づき、彼を癒してやるうちに塑像は完成に近づいていく。モデルを見つめ分析し消化して再構築する創造性と、ほとばしる感情を形にする技術。老いてもなお、いや死が近いと覚悟したからこそ到達できた境地から生まれた作品は、クロス自身も己の最高傑作と思ったに違いない。

オススメ度 ★★★

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