こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

凶悪

otello2013-09-25

凶悪

監督 白石和彌
出演 山田孝之/ピエール瀧/リリー・フランキー/池脇千鶴/白川和子
ナンバー 232
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

拡大コピーした住宅地図から目星をつけた家をしらみつぶしに当たる。やっと見つけたキーパーソンは口が重く有効な手がかりはなかなかつかめない。それでも聞き込みを続け、かかわった人々の人物像を浮き彫りにする過程で、重大な犯罪の確信を深めていく。死刑囚の話は信じられるのか、小出しにされた情報に振り回されながらも男はのめり込んでいく。まさに調査報道の王道を行く展開、ところが真実に近づくにつれ明らかになるのはおぞましいほどの人間のエゴばかりだ。人など簡単に死に、存在を消せる、ピエール瀧リリー・フランキーが演じる犯罪者が、救いのない物語にすさまじいまでのリアリティを吹き込んでいる。

雑誌記者の藤井は、死刑囚の須藤から、警察も知らない殺人事件の告発を受け、独自に取材を進める。須藤の曖昧な告発書を元に被害者の足跡をたどるうちに点と点がつながり、木村という男の過去が明らかになっていく。

普段は温厚な顔で家族や舎弟を大切にしている木村と須藤。だが、借金で首が回らない男を殺し焼却炉で燃やし、生き埋めにし、さらに家族から見捨てられた老人に保険金をかけて引き取り、いたぶった挙句命を奪う。その切り替えが劇的に起きるのではなく、あくまで日常の延長として殺人と死体処理が行われる。そこには悪事を働いている自覚などない。身寄りのない土地持ち老人を“油田”に例える木村の厚顔に、善悪を超越した人間の恐ろしさが凝縮されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

須藤証言の裏付けを一つずつ取り、木村を追い詰める藤井。しかし彼の表情が晴れない。ルポが雑誌に掲載され、警察が動きだしてもなお、彼の眉間には深い皺が刻まれたままだ。それは、彼の妻が指摘したように、彼自身がこの事件を追うことを楽しんでいたからだろう。社会正義といった高尚な動機ではない、下世話な好奇心。“知りたい”と渇望するジャーナリストの業を山田孝之が厳しい視線で表現していた。

オススメ度 ★★★*

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