こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

地獄でなぜ悪い

otello2013-10-01

地獄でなぜ悪い

監督 園子温
出演 國村隼/堤真一/二階堂ふみ/友近/ 長谷川博己/星野源
ナンバー 237
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

過剰な言葉、過剰なサウンド、過剰な演技、過剰なイメージ、そして何より映画への過剰な愛。五感のみならず思考までも支配しようと試みる凶暴な映像の数々と、先が読めない奇想天外な展開は、まさに全開の園子温ワールド。信念を曲げず目標に向かって突き進む青年と、妻子のためにすべてをなげうつヤクザ、野性を秘めた娘と彼女に心を奪われた男たちが入り乱れて繰り広げられる大殺戮は、血と暴力の饗宴を原色アートの域に昇華させている。だが、もはや暴走列車と化した物語の加速と破壊力に感性は追いつかず、トップスピードに達する前に悪酔いしてしまった。。。

映画監督を目指すも機会に恵まれない平田は、“映画の神”に見出される日を待つばかり。ある日、娘のミツコ主演の映画を撮りたいヤクザの組長・武藤に拉致されたコウジから、アクション映画の監督を依頼される。

やる気はある、アイデアもある、でも才能はなくチャンスはこない。“映画監督”という肩書で自己陶酔に浸っている平田は、あらゆる映画青年の象徴。根拠もなく願いがいつか叶うと信じる自信だけが彼を支えている。一方の武藤は義理人情を重んじる古いタイプの武闘派で、いまだ切った張ったの世界に生きている。そういった基本的な設定で、ブルース・リー深作欣二へのオマージュといったタランティーノの二番煎じではなく、現代の映画青年やヤクザが影響を受けたクリエイターに焦点を当てていれば新鮮さを感じたはずだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

乱闘シーンにリアリティを持たせたい平田は、武藤組の敵対組織への殴り込みをカメラに収めたいと言い出し、交渉に成功、彼らの殺し合いの現場で撮影を始める。そこでもブルース・リーと深作作品のテイストをふんだんに盛り込み、さらに血しぶきをぶちまけ、手首や頭に宙を舞わせる。それは平田が夢に見た究極の大活劇、いや園子温自身がこのシーンを撮りたいがために脚本を書いたのだ。ところが、その過剰さゆえにどの登場人物にも感情移入できず、この作品が発する強烈な熱気は心を素通りしていった。

オススメ度 ★★

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