ムード・インディゴ うたかたの日々 L'ECUME DES JOURS
監督 ミシェル・ゴンドリー
出演 ロマン・デュリス/オドレイ・トトゥ/ガド・エルマレ
ナンバー 250
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
腕利きのコックが作る自己主張する料理、蛇口から出てくるうなぎ、ゴキブリみたにはい回る呼び鈴、演奏に合わせてカクテルを作るピアノ、長く伸びた足をくねらせるダンス…。独創的な小道具とパリの古い町並みはレトロフューチャーなイメージに命を与え、主人公が体験する、夢で見たような風景と愛の苦悩を再現する。ところが、あまりにも奇抜なアイデアの数々は驚きやあこがれを遠く超えてしまい、そこから放たれるファンタスティックな毒は何のメタファーなのかまったく見当がつかない。結果的にこの作品の世界観から完全にはじき出されてしまった。原作に親しんでいれば違った感慨を持ったかもしれないが。。。
大金持ちのコランはパーティでクロエを紹介され、たちまち恋に落ちる。ふたりは結婚するが、クロエは肺に睡蓮の花が咲く病気に侵され、高額な治療費のせいで資産が底をついたコランは仕方なく働きに出る。
小説の描写を可能な限り豊かな想像力で視覚化しているのだろう。カラフルな前半は、それゆえ遊び心に富み、不思議の国に迷い込んだ感覚にとらわれる。だが、それらが物語の展開にどんな影響を及ぼしているのかは不明で、ただ妄想に似た思いつきを具象化するばかり。コランとクロエの思考や行動にどうかかわってくるのかも理解できなかった。不条理劇とはちがう、奔放なイマジネーションで満たされたコランとクロエの甘く切ないメロドラマととらえるべきなのだろう。恋をしている間は目に入るすべてがが極彩色の楽しさに彩られる、そんな幸せに浸っていられる者のみがこの映画を堪能する資格を持つのだ。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて病状が悪化すると映像は色彩を失い、不幸のスパイラルを転げ落ちるかの如くコランとクロエはモノクロームの空間に追いやられる。もはやクロエが明日死ぬと告知されても、運命を受け入れるほかないコラン。彼の哀しみや無力感だけはリアルな感情として共感できた。。。
オススメ度 ★★