こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ばしゃ馬さんとビッグマウス

otello2013-11-12

ばしゃ馬さんとビッグマウス

監督 吉田恵輔
出演 麻生久美子/安田章大/岡田義徳/山田真歩/清水優
ナンバー 272
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

「世界を変えてやる」そう思って志した道なのに、いつまでたっても認められず悶々とし、落胆と悔しさに涙する日々。こんなはずじゃない、審査員との相性が悪かっただけと胸に言い聞かせながら、また次のネタを探し、アイデアを膨らまし、取材し、キーボードを打つヒロイン。そして彼女の前に現れた、根拠もなく大言壮語し人を見下す自信満々の男。物語は、脚本家を目指すふたりの日常をとらえ、夢を追い続ける若者の現実を描く。努力ではどうしようもない才能の壁。それでもあきらめられず書き続ける。「夢をどうやって終わりにしたらいいかわからない」と口にする、青春のすべてをつぎ込んだのに報われなかった彼女の言葉が切ない。

バイトしながらシナリオスクールに通うみち代は、天童というクラスメートに声をかけられるが、尊大な態度が気に食わない。ある日、講師に招かれた映画監督のアドバイスで老人ホームをテーマにした企画を思いつく。

元恋人に頼みこみ、老人ホームでボランティアを始めるみち代。そこはまさしく職員と老人たちの戦場で、認識の甘かったみち代は失敗し迷惑をかける。だが、プロとしてカネをもらって働く厳しさを学んだにもかかわらず、出来上がった作品はうわべのきれいごとしか描けていないと監督にも元恋人にも酷評される。もっと人間の奥深い感情に踏み込まなければ観客を感動させることなどできないのに、みち代はその根本的なところを理解できていないのだ。好きや憧れでは生き残っていけないクリエイター業界、それを誰も彼女に伝えようとしない。周囲の人間はみな彼女を応援しているふりをする、そんな優しさの中の残酷さが非常にリアルだった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらに、何の実績もないのに、己を未来の大物と言い切る天童のイタさが、映画に奥行きを持たせている。自分には何もないのを自覚しながら他人に悟られないように虚勢を張るが、周りからは相手にされていない。この男に象徴される壮大な勘違い能力こそ、ある意味夢を追う人間に必要な資質なのかもしれない。。。

オススメ度 ★★★*

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