こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

光にふれる

otello2013-11-19

光にふれる 逆光飛翔

監督 チャン・ロンジー
出演 ホアン・ユィシアン/サンドリーナ・ピンナ/リー・リエ/ファンイー・シュウ
ナンバー 269
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

わずかなエンジン音の違いや雑踏の中の話し声を聞き分ける鋭敏な耳。杖から伝わる振動で歩行の安全を確認し、触れるものすべての感触を記憶している繊細な指先。生まれつき視力を持たなかった少年は、代わりにピアニストにいちばん大切な感覚を与えられ、才能を磨いていく。映画は大学の音楽科に進学した主人公が仲間や理解者と出会い、交流していくうちに己の道を見つけるまでを描く。幼少時から身の回りの世話をしてくれた母からの自立、初めてできた晴眼者の親友と刺激的な音楽、そして想像するしかないけれど確かに感じる肉体を駆使したダンスの息遣い。目が不自由でも青春を楽しみたい思いは同じ、“ハンディキャップを乗り越えて頑張っています”的な感動の押し売り感を極力抑えた映像が瑞々しく新鮮だ。

盲学校を卒業し台北の大学に入学、学生寮に入ったユィシアンは授業が始まる早々にクラスの足手まといになるが、彼の演奏を聴いたクラスメートはテクニックに圧倒される。サークル活動では、同部屋のチンたちとバンドを組む。

一方、カネにだらしない母と身勝手な恋人に振り回され笑顔を忘れていたシャオジエは、横断歩道で途方に暮れていたユィシアンを助けたことから彼の言葉に耳を傾け、もう一度プロのダンサーを目指す。ユィシアンにはシャオジエの長い手足も凛々しい顔も蝶のような優雅な舞いも見えない。それでも夢を叶えるという共通の情熱に惹きつけられる。人生に迷っていたシャオジエも、生き方を示唆してくれるユィシアンに心を開く。恋でもない、愛でもない、アーティストとしての希望がふたりを結び付ける。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

カメラはユィシアンの練習風景を追わず、周りが晴眼者しかいない未体験の社会に彼が馴染んでいく姿に焦点を当てる。その過程で、彼とかかわった者はみな影響されていく。それはむしろ世界がユィシアンを受け入れるために変わっていくようでもある。世界はきっと美しいはず、ユィシアンが奏でるメロディには、彼のそんな信念が込められていた。

オススメ度 ★★★

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