こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アイム・ソー・エキサイテッド!

otello2013-12-04

アイム・ソー・エキサイテッド! Los amantes pasajeros

監督 ペドロ・アルモドバル
出演 アントニオ・デ・ラ・トーレ/ウーゴ・シルバ/ミゲル・アンヘルシルベストル/ラヤ・マルティ/ハビエル・カマラ/カルロス・アレセス/ラウル・アレバロ/ホセ・マリア・ヤズピック/ギジェルモ・トレド
ナンバー 276
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

離陸したものの飛行継続が難しくなり、帰投する空港を求めてあてもなく飛び続ける旅客機。緊張感の裏返しなのか、パイロットもCAも腹をくくり、乗客たちもこの状況を脱しようとするよりは、むしろ絶体絶命のピンチを楽しんでいるかのよう。物語の舞台となる旅客機は現代スペインの縮図、政治家や役人の間では無責任と不正が横行し、酒や同性愛で気を紛らわす。金持ちや犯罪者は海外に逃避しようとする。そして一般の国民には何も知らせない。映画は、現実を直視しようとせず楽天的なスペイン人に、果たして経済危機からのソフトランディングは可能なのかと問いかける。

地上職員の不注意で車輪に不具合を抱えたまま飛び立った旅客機は引き返すが、なかなか受け入れてくれる空港が見つからない。トラブルを知ったビジネスクラスの客が騒ぎ始め、操縦室と客室を行き来するCAたちは右往左往するばかり。

政府や役人の象徴であるパイロットも男性CAもゲイかバイセクシュアル、複雑な人間関係を露呈してだれもリーダーシップを取れない。一方、金持ち階級のメタファーであるビジネスクラスの乗客たちは、墜落を危惧しつつもドラッグの助けを借りて胸の内を打ち明ける。銀行家、俳優、SM女王、警備担当者など、職業は様々だが、彼らもまた私利私欲に走るジコチューな人々。予知能力者はバブル崩壊の警鐘を鳴らすのが遅すぎた経済学者への皮肉で、新婚カップルはまともな職に就けない若者世代の代表だ。共感できるキャラクターがいなかったせいでコメディとしては笑えなかったが、強烈な風刺から垣間見えるペドロ・アルモドバルの祖国への危機感は切実に感じられた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

いよいよ決死の着陸を敢行する直前、乗客たちは思い思いにセックスにふける。それは死を目前にした人間の本能であり、次世代に託す希望。今とこれからを生きるスペイン人はみな運命共同体であり、共に苦難を乗り切る覚悟が必要と訴える。それにしても空港ロビーの静寂と外部の効果音だけで胴体着陸を表現する処理はスマートだった。

オススメ度 ★★★

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