こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

父は家元

otello2013-12-11

父は家元

監督 高野裕規
出演 小堀宗実/小堀優子/小堀正大
ナンバー 292
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

始まりは革新だった。だが400年の時とともに様式美に昇華され、非日常を体験し精神を浄化させる芸術に進化した。本来、茶の湯を楽しむのは支配階級・上流階級の暮らしに余裕のある階層の男たちだったはず。現代では“欧米人のビジネスパートナーに日本文化を紹介する立場”の国際的企業の経営者や、歌舞伎俳優といった“文化・芸術の表現者”が主役。映画は、ある茶道家とその家族の四季を通じ、「綺麗さび」という日本独特のな美的価値観とは何かを追求する。この作品を見たくらいで理解できるほど茶道は軽くない、しかし、学校や一般向けセミナーなど気軽に参加できる機会も多く、少なくとも門戸は開かれているのは実感できる。

利休の流れをくむ小堀遠州が創始した平和な時代の茶道は脈々と受け継がれ、13代目・小堀宗実は流行を取り入れながらも格式は守るスタイルを息子に伝える。彼の家元としての日々は、決められた年間行事をこなしつつ、各界の指導者に茶を振る舞い、普及活動にも余念がない。

日本オラクルビルの高層階に設えられた茶室、おそらくここに招かれるのは名士か、接待される外国人実業家・有名人たちだろう。磨き上げられた床や柱、庭の木々や炉の灰にまで気を配り、宗実は客人を迎え心を尽くす。隅々までピンと張りつめた空気はかえって緊張を強いるのではと心配してしまうほど。そこではもてなされる側も知性教養人間性が問われている。いわば“クラス”にふさわしいかどうかの面接試験なのだ。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で、女たちが主流のカジュアルな茶道は、振袖姿も艶やかな世界。閑に美を見出す茶室での点茶とは違い、行儀作法を学ぶ習い事だ。そこには堅苦しさよりも解放感、枯淡よりも華美な雰囲気が横溢し、ある種の社交場と化している。古典的なアートといえども常に改善を加えなければ生き残れない、そして長い年月の洗礼を受けたからこそより洗練されていく、伝統とはそのようにして築き上げられることを教えられた。

オススメ度 ★★★

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