こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

武士の献立

otello2013-12-17

武士の献立

監督 朝原雄三
出演 上戸彩/高良健吾/西田敏行/余貴美子/夏川結衣/緒形直人/成海璃子/柄本佑
ナンバー 299
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

思い通りにならない運命、他人が決めてしまう未来。剣の腕を磨き剣術を究める決意をしたのに予期せぬアクシデントで刀を包丁に持ち替えねばならなくなった若侍は、サトイモの皮ひとつ満足に剥けず、味覚や彩といった料理のセンスもない。当然お役目に身が入らず小言ばかりを食らっている。物語は、大名の料理役に嫁いだ料理上手なヒロインが夫を支え一人前の包丁侍に育てていく過程を描く。魚や野菜・山菜などの素材や風味を生かした日本料理の数々は、フレンチや中華の派手さはない。ところが、香りや味わいを最大限に引き出すシンプルな献立は、俳句のような削ぎ落とした美学を感じさせる。

江戸時代、加賀藩の厨房係・伝内は鶴肉を擬した汁の具の正体を言い当てた側室の侍女・春を息子・安信の嫁に望む。加賀にやってきた春は安信の料理の腕前に失望し、安信に特訓を課す。しかし、安信はいまだ刀を捨てられずにいた。

忠義の鎖でがんじがらめに縛られた侍と夫のために自らを犠牲にする妻というステレオタイプではなく、“年上嫁の尻に敷かれる未熟亭主”の構図で映画は時代劇臭さを消す。そこで春が安信に伝えるのは食材への愛と客をもてなす心。料理は女の手習いと中途半端な気持ちで厨房に入る安信の根性を春は徹底的にたたき直す。もはや戦の世ではない、刀を振り回す必要がなくなった侍のサラリーマン的な現実がコミカルに再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

一方で改革派と通じる安信は檄文を受け取って謀反に参加を決めるが、春の機転で窮地を逃れやっと自分の使命に目覚める。武士のプライドとは命を無駄にすることではなく、己の役割をまっとうすること、饗応料理調理の冒頭に包丁と菜箸で魚をさばく見事な所作に、料理こそ生きる道と定めた安信の覚悟がみなぎっていた。希望した人生とは違うかもしれない、だが一生懸命にうちこめば嫌いだった仕事でもきっとやりがいを覚えるようになる、そんな思いが込められた作品だった。

オススメ度 ★★*

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