監督 スティーブ・マックイーン
出演 キウェテル・イジョフォー/マイケル・ファスベンダー/ベネディクト・カンバーバッチ/ポール・ダノ/ポール・ジアマッティ
ナンバー 309
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
目覚めると手足が鎖につながれている。身体の自由のみならず名前も尊厳も奪われた男は己の置かれた状況が信じられないまま暴力で服従を強いられる。何を言っても通じない、突然誘拐され奴隷に身を落とした黒人、物語は彼が体験した理不尽で残酷で苦悩に満ちた運命の変遷を追う。それは米国が抱える深く悲しい恥ずべき歴史の記録、黒人奴隷制度がいかに理性からかけ離れたものかを追求する。使用人のように扱われる奴隷もいる、農耕馬のように死ぬまでこき使われる奴隷もいる。彼らの待遇は、白人主人の性格や考え方によって大きく違ってくる、そんな黒人奴隷の現実を主人公の目を通してリアリティたっぷりに再現される。
1841年NY州、自由黒人のソロモンはワシントンDCで拉致され、プラットと名付けられてニューオーリンズの奴隷市場に送られる。温厚なフォードに買われるが、白人使用人とトラブルを起こしてエップスの農場に転売される。
北部の白人は敬意をもって接してくれたのに、エップスにとっては労働力であり殺生与奪権を握った所有物。いくら自由人であることを訴えても鞭で応えるのみ。プラットはもはや抵抗しても無駄と知り、救出のチャンスを待つ。その気配を他人に悟られてはならず、生きて妻子の元に帰るという決意だけが彼を支えている。重苦しく張りつめた映像は、果てしなく続く肉体的精神的苦痛がプラットの心を蝕み、諦めから絶望に腐らせる過程を見る者にも体感させる。希望が萎んでいくプラットの姿は、胸を締め付ける息苦しさをもたらし、スクリーンを正視するのが辛くなるほどだった。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
何度も鞭打たれた背中は皮膚が破れ肉が裂け骨まで露出する。妻と冷戦中のエップスが思いを寄せる女奴隷・パッツィに厳しく当たるのは、対等な人間として愛してはいけない女に恋をした自分を否定したいから。マイケル・ファスベンダーが狂気と偏見に捻じ曲がったこの唾棄すべき白人農園主を見事に演じ切っていた。きっと、当時はこんな男は珍しくなかったのだろう。。。
オススメ度 ★★★★