少女は自転車にのって Wadjda
監督 ハイファ・アル=マンスール
出演 ワアド・ムハンマド/リーム・アブドゥラ
ナンバー 3
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
家の中では西洋文明を享受していても、外出するときは肌や髪、声までも隠さなければならない。女が男の付属物のごとく扱われ、まともな人権が認められないまま従順を求められる。イスラムの戒律がいまだ厳格に残るサウジアラビア、魂の自由に目覚めた少女は自転車に乗ることで己の意志で生きるという願いを叶えようとする。母や校長の言いつけに対し、心の中で舌を出しながら違反を繰り返し、決して夢をあきらめない。時によい子のフリをして周囲を煙に巻くくらいの打算もできる。そんなしなやかな発想をするヒロインが魅力的だ。
女子校に通うワジダは男の子にからかわれたのを機に自転車が欲しくなり、貯金を始めるがなかなか貯まらない。ある日、コーラン暗唱大会の賞金で自転車が手に入ると知ったワジダは、宗教クラブに入って懸命に勉強する。
開放的なイスラム国ならともかく、映画は普段日本のメディアではほとんど目にする機会のないサウジ女性の日常を活写する。先進国から見れば窮屈だが、欧米風のライフスタイルも巧みに取り入れ安価な中国製品も暮らしに密着している。さらに頭から黒い布をかぶっていても真っ赤な服を買うなど、オシャレもバッチリ。いくら情報を統制しても物欲は抑えきれない、ならば神の教えに背かない程度に人生を楽しむ本音と建前の使い分けに女たちのしたたかさを感じる。そしてワジダもその合理的な考えをしっかりと受け継いでいるあたり、イスラム女性の“解放”も近いと予感させた。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
ワジダが朗唱するコーランの一節は、独特の節回しの旋律に様々な抑揚が込められ、言葉の意味が分からなくても居住まいを正したくなる荘厳さを醸し出す。無事アッラーを称え終えたワジダは見事優勝するが、賞金はもらえない。それでも、ワジダの思いに気づいた母親が理解を示す。ペダルを踏んで全身に風を受ける、それは小さな出来事かもしれないがワジダの未来に大きな希望をもたらしていた。。。
オススメ度 ★★★