こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

小さいおうち

otello2014-01-27

小さいおうち

監督 山田洋次
出演 松たか子/黒木華/片岡孝太郎/吉岡秀隆/妻夫木聡/倍賞千恵子
ナンバー 21
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

遺された大学ノートに記された秘められた恋の足跡。それは奉公先の奥様の不倫の証拠でもあり、筆者自身の愛の軌跡でもある。中国での戦勝と好景気に浮かれていた日本が、対米開戦を境に不自由な暮らしを強いられていく過程は、どこかおとぎ話のごときのどかさをまとう。そんな時代でも男女の“好き”という気持ちは抑え込むことはできず、禁じられたものであるほど燃え上がるのだ。映画は、昭和10年代の東京郊外、モダンな一軒家を建てた家庭に仕えた女中の目を通して見た三角関係の顛末を追う。ハガキで連絡を取り、用件は直接伝えるといった人間同士の付き合いが濃厚だったころの空気が凝縮された映像はミステリアスなメタファーに満ち、行間に込められた真意は他にあると仄めかす演出にスクリーンから目が離せない。

おもちゃ会社重役・平井の家に雇われたタキは、妻の時子に頼られ、ひとり息子の恭一には慕われ、充実した日々を過ごしていた。ある日、平井が新入社員の板倉を家に連れてくる。

物語は老人となったタキが書いた自叙伝の体裁をとる。当時の日本は暗く停滞していたと疑わない孫に、それほど悪くはなかったと反論するタキ。ふたりの姿はステレオタイプの反戦メッセージとは一線を画し、歴史評価の画一化に疑問を投げかける。丙種合格の板倉には召集令状が来ても前線に送られなかっただろうし、タキも東京空襲が本格化する前に田舎に帰る。戦争の影響が少なかった幸運な例かもしれないが、あまり悲惨な体験をしなかった日本人も確実にいた事実をうかがわせる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

板倉にほのかな思いを寄せていたタキは板倉の見合い話が気が気でない。いつの間にか板倉とできてしまった時子に対しても複雑な感情が芽生える。そして密かな、決然とした復讐。板倉もまたタキに気があったように描かれているのは、彼女の主観だけではあるまい。タキの遺品から見つかった平井家の絵がふたりの愛の真実を物語っていた。

オススメ度 ★★★*

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