こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン

otello2014-01-29

マンガで世界を変えようとした男 ラルフ・ステッドマン
For No Good Reason

監督 チャーリー・ポール
出演 ラルフ・ステッドマン/ジョニー・デップ/ウィリアム・バロウズ/テリー・ギリアム
ナンバー 20
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

たっぷりとインクに浸した筆を真っ白な紙の上で振る。飛び散ったインクは紙の上で玉模様となる。何度も繰り返すが、意味のある形には見えない。だがそこに小さな○を加えると人の顔が浮かび上がり、社会への抗議の声を上げ始める。偶然の産物か必然の結末か、破壊的でありながら混沌の中から痛烈な皮肉が生まれてくるまったく革新的な彼の手法は、常識に対するアンチテーゼでもある。映画は1960年代から活躍する風刺マンガ家 ラルフ・ステッドマンの半生を追う。ペンの線で描いた気の利いた作品から、絵具以外の材料を使った上で画材を削り取って制作する抽象画、さらにポラロイド写真の現像過程で加工するなど、ラルフは常に新たな技法に挑戦する。“世の中を変えようとするのは最高の暇つぶし”という言葉が、彼の生き方を象徴していた。

ラルフ・ステッドマンのスタジオを訪れたジョニー・デップは彼にインタビューを試みる。駆け出しのころラルフは、編集者のハンターと共に直撃体験取材をモットーとするゴンゾージャーナリズムの旗手として一世を風靡していた。

既成概念に疑問を投げかけた上で、積極的に打ち負かそうとする。ベトナム戦争で疲弊し荒治療が必要だった米国に強烈なパンチを浴びせ続けるラルフとハンター。それは大衆の支持を受け、彼らはいっそう過激になる。特に、ウォーターゲート事件に揺れる政権末期のニクソン大統領の醜く歪んだ似顔絵は、一目見ただけで政治の腐敗を決定的に印象付ける。特徴を的確にとらえてデフォルメし毒を発散させる観察眼と構成力には、圧倒的な説得力があった。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後も、レオナルド・ダ・ヴィンチになりきったりハンターと袂を分かったりするが、現在も筆は健在。ただ、今や「巨匠」となった彼の新作は引く手あまた、大量に印刷されたイラストに直筆のサインを加えると値段は跳ね上がり莫大な利益をもたらす。かつてぶっ壊そうとしたはずの資本主義的な価値観にどっぷりとつかっている年老いた彼を、若いころのラルフならどう表現するだろうか。。。

オススメ度 ★★★

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