オンリー・ゴッド ONLY GOD FORGIVES
監督 ニコラス・ウィンディング・レフン
出演 ライアン・ゴズリング/クリスティン・スコット・トーマス/ビタヤ・パンスリンガム/ラター・ポーガーム/ゴードン・ブラウン
ナンバー 23
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
遠い虚空を見つめるような視線は汚れた裏社会から目を逸らすためなのか、愛された記憶が欠落しているからなのか。蒸し暑い亜熱帯の夜、賭けムエタイと売春宿、露店の飲食店などが並ぶ猥雑な繁華街で蠢く男と女の物語は、復讐の連鎖の果てに何があるかを問う。登場人物の呼吸と相反する長いカット、暗くじめついた意味ありげなシーン、そんな絶望の臭いが充満する映像は、抑制された感情とその突然の爆発によって奇妙なバランスを取っている。人は人の罪を罰することができるのか、そして許す資格があるのか。警官とギャングといった単純な対立構造ではない、親と子の愛情が絡む凄惨な暴力と、それらを超越した力の存在が、人間の心の深淵に巣食う虚無を覗きこむ。
売春婦を殺めた闇組織の構成員ビリーが彼女の父に殺され、ビリーの母で組織のボス・クリスタルは弟のジュリアンに報復を命じるが、ジュリアンは仇討ちをやめる。やがてクリスタルは元警官のチャンがビリー殺しに関わっていたと知る。
ジュリアンの不孝を嘆き弱腰を責めるクリスタルは、地元のチンピラを雇ってチャンを襲わせるが反撃にあい、逆に追われる立場となってジュリアンに保護を乞う。クリスタルは悪徳に染まった尊大な女で、己の息子たちを意のままに操るマザコンに育て上げている。一方、表情をまったく変えず背中に差した刀を自在に振るうチャンは、死神のごとき無慈悲で断罪していく。強烈な個性を放つ2人の前でもはやジュリアンの影は薄く、無口さが拍車をかける。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
その後ジュリアンはチャンと拳を交えるが全く歯が立たず、クリスタルを守れない。チャンもジュリアンの中に残ったわずかな良心を見抜いたのか、彼を生かそうとする。クリスタルには死を、悪党になりきれないジュリアンにはそれなりの苦痛を与えるチャンの姿に、異文化社会でも自分たちの価値観を押し付ける西洋人に対する怒りがにじみ出ていた。ただ、主役のはずのライアン・ゴスリングのキャラクターがほとんど機能していないのはいかがなものか。。。
オススメ度 ★★