ランナウェイ・ブルース The Motel Life
監督 アラン・ポルスキー/ガブリエル・ポルスキー
出演 エミール・ハーシュ/スティーブン・ドーフ/ダコタ・ファニング/クリス・クリストファーソン
ナンバー 29
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
夢なんか元々ない、どうすれば希望を持てるのかも分からない。肉体労働で得たわずかなカネで酒を買い、飲んだくれてモーテルのベッドに沈む。自分だけなら這い上がるチャンスはあった、だがたった一人の肉親である義足の兄という存在が、彼を貧困に縛り付ける。映画は、少年時代に両親を亡くした兄弟が互いにいたわり合いながら社会の片隅でひっそりと過ごす姿を描く。弟の語るほら話の中では自由になれる、兄がその物語をイラストに起こすことで空想が実現するかに思えてくる。寒々とした街の風景は負け犬生活に慣れた2人の心を反映し、それでも生きていかなければならない現実を象徴する。親の愛はほとんど知らないが兄弟は愛している、2人の深く哀しい絆が胸を打つ。
事故で右足を失った兄・ジェリーとモーテル暮らしを送るフランク。ある日、ジェリーが子供をひき逃げし、悲観して自殺を図るが果たせず入院、フランクは賭けで稼いだカネでクルマを買いジェリーを連れて逃亡する。
犯罪に走ってもおかしくない境遇でも、ジェリーの面倒を見ているフランクは人に迷惑をかけないように気を使っている。“胸を張って生きろ”と彼を雇ってくれた中古車屋のオヤジなど、彼らを気にかけてくれる大人もいる。ジェリーもひき逃げを悔いている。基本的に2人とも悪意はなく自制も効いているが、不運に付きまとわれてばかり。まともな教育を受けていないせいで不器用な日々を強いられる。そんな彼らのやり場のない諦観がやるせない映像で再現される。「片足の男は誰からも愛されない」と嘆くジェリーの苦悩が痛々しいほど切ない。そしてそれを受け止めひとりで背負い込むフランクの辛さ。あまりにも過酷な身の上に息が詰まりそうになる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
2人はフランクの元恋人・アニーが住む町に流れていく。彼女もまた荒んだ家庭環境ゆえに忌まわしい過去を持つ。セーフティネットから零れ落ちた人々、でも人生はこれからも続いていく。最後に、ほんのわずか明るい兆しを見せてくれたのが救いだった。。。
オススメ度 ★★★