こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

サード・パーソン

otello2014-03-21

サード・パーソン Third Person

監督 ポール・ハギス
出演 リーアム・ニーソン/ミラ・クニス/エイドリアン・ブロディ/オリビア・ワイルド/ジェームズ・フランコ/モラン・アティアス
ナンバー 65
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

“watch me” 誰かに見守られていると感じるだけで、生きている実感がわく。ひとりでは寂しすぎる、大勢でいるのは息苦しい、登場人物はみな苦悩を抱えたまま心地よい人間関係と距離感を求めてさまよい、感情をぶつけ合い、折り合いをつけようとする。パリ・ローマ・ニューヨーク、物語は3つの都市で進行中の3つの愛の行方を追う。美しく野心的な愛人との腐れ縁、新しい出会いと犯罪の臭いがする冒険、引き裂かれた母と子。それら遠く離れた空間で繰り広げられるエピソードが共通の着地点に収斂していく過程は、映画ならではのマジックだ。さらに成功者と貧困層を線引きし、両者は信頼し理解し合うことができるのかと問う。

新作執筆中の作家・マイケルはパリのホテルでアンナと密会を楽しむ。産業スパイのスコットはローマのバーでロマの女に惹かれる。元女優のジュリアは息子の親権調停費用を捻出するためNYのホテルで働き始める。

才能が枯渇したマイケル、仕事に嫌気がさしているスコット、息子を思う気持ちばかり先走り失敗ばかりのジュリア。3人とも思い通りにならない日常にうんざりしながらも自暴自棄にならない程度には自制している。特に見ず知らずの女にカネを工面しようとするスコットは手の込んだ詐欺と疑いつつも彼女の突き放した魅力に囚われていく。お互いの足に触れやがてキスに至るシーンは心理的な壁が崩れていく様を饒舌に語り、新たな希望が生まれる瞬間が詩的に再現されていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

創作とは、自己を見つめ内なる情熱を形にしていく作業。成功するほど孤独に陥り重圧と葛藤する。リーアム・ニーソン扮する作家は、ホテルの部屋、携帯電話、メモ用紙、白バラといった小道具を巧みに使い、ミステリアスかつスリリングに3つの世界をひとつの閉じた輪につないでいく。“自分の人生の諦めを書いているだけ”という言葉はこの作家自身に向けられたものなのだろう。そして何度もささやかれる“watch me”の声は彼の心の叫び。重層的な構造が分かりにくさを助長する分、刺激的な作品だった。

オススメ度 ★★★

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