こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

フルートベール駅で

otello2014-03-25

フルートベール駅で FRUITVALE STATION

監督 ライアン・クーグラー
出演 マイケル・B・ジョーダン/メロニー・ディアス/オクタヴィア・スペンサー/ケヴィン・デュランド/チャド・マイケル・マーレイ/アナ・オライリー
ナンバー 69
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

罪を犯して服役した。妻に隠れて浮気もした。せっかく見つけた仕事なのに遅刻のせいで解雇された。直情径行ですぐ手を出した。確かに彼は自分に甘く流されやすい性格ではある。一方で娘を誰よりも愛し、母の誕生日は覚えており、困った人には親切にし、ひき逃げされた犬を放ってはおけないなど、優しい心を持っている。少し道を踏み外した過去はあるが、妻子のために更生を決意したばかり、苦しい暮らしで何とかやりくりしようと努力している。物語は、そんな主人公がなぜ死ななければならなかったのかを問う。特に犯罪が多発している地域ではない、それでも黒人というだけで拘束し暴力を振るう白人の警官たち。根底にあるのは偏見、ひとりの人間の命があまりにも軽い現実に怒りよりも虚しさが湧いてくる。

大晦日、娘を保育所に送り妻を職場で降ろしたオスカーは、母のバースデーカードを買いに行く。その後、妻や友人たちと市内に新年の花火を見に行くが、帰路の電車の中で刑務所時代に因縁のあった白人に絡まれる。

2週間前から無職なのに、妻に打ち明けられない気の弱さ。でも、このままではダメだとわかっているし、危うくハッパ売りに戻るところを思いとどまる分別もある。それは妻や母や娘の信頼を裏切れないから。今は幸運から見放されているがきっと挽回のチャンスはある、オスカーはそう己に言い聞かせて心配をかけまいとしているのだ。市民の手本になるような立派な男ではないが、家族思いで友情にも篤く他者への気遣いも忘れず善意と良心は失っていない。映画は、美点も欠点もあるオスカーの素顔を詳細に描写することで、彼の人生を奪ったものに対する抗議の声を鋭くとがらせていく。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

最初に結末を見せて、観客にオスカーの運命を明示する。最期の一日、期待通りにいかない出来事もあったけれど、妻や母との関係を修復し、酒もドラッグを断ち、見知らぬ他人に感謝された。無念だった、だが善き人として生きられた。彼の死を悼む人が大勢いた事実がわずかな救いとなっていた。

オススメ度 ★★★

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