こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

オーバー・ザ・ブルースカイ

otello2014-03-31

オーバー・ザ・ブルースカイ
THE BROKEN CIRCLE BREAKDOWN

監督 フェリックス・ヴァン・ヒュルーニンゲン
出演 ヴェルル・バーテンス/ヨハン・ヘルデンベルグ/ヘールト・ヴァン・ランペルベルフ/ネル・カトリッセ
ナンバー 74
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

美しく純粋な妻、可憐で無邪気な娘、大好きな歌を絶唱するステージ。男にとって完璧に満ち足りた環になるはずだった。だが、不治の病に侵された娘は日々衰え、彼女の頭髪が抜けるのと同じ速さで幸福が手のひらから零れ落ちていく。底なしの暗闇のような喪失感、さらに娘の不在の解釈を巡る妻との絶え間ない相克に彼は疲れ果ててしまう。物語は一組の男と女の出会いから結婚、出産、悲しい別れまでを描く。自然光だけで撮影された柔らかな映像、複雑にシャッフルされた時制、それら映画的な表現術を駆使して構成されたエピソードの数々は、耳に心地よい音楽と共に直接心に問いかけてくる。真実の愛とは何かと。

ミュージシャンのディディエはタトゥーアーティストのエリーゼと恋に落ち、ほどなくエリーゼは妊娠する。ふたりの間に生まれた女の子はメイベルと名付けられ大切に育てられるが、白血病で入院を余儀なくされる。

自由とチャンスの国・米国はディディエの理想、だからこそ開拓魂ともいえるカントリーソングを己の職業にしている。ところがそれは彼の幻想に過ぎないとメイベルの病状の悪化と共に明確になっていく。ES細胞がメイベルの命を救うかもしれないのに、保守的な米議会に法規制されるのだ。911に始まるブッシュ政権下で憧れの夢の国だった米国が失望の帝国にかわっていく、そんなディディエの心境の変化をトレースするように永遠と思えたエリーゼとの関係も足元から崩れていく。にもかかわらずお互いに歩み寄ろうとしないふたりのエゴ、付き合った男の名を体に刻んできたエリーゼがディディエの名を消すシーンが、ふたりが抱えるそれぞれ種類の違う絶望を象徴していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

映画は、重病のメイベル、エリーゼの心停止など、結果を先に見せてからその過程を追う。過去の中に未来としての現在を混在させて際立たせる運命に抗えない人間の弱さ。それでもエリーゼの体で見つかった真新しい、“アラバマ&モンロー”のタトゥーが、どれほど過酷な状況でも愛が希望をもたらすことを教えてくれた。

オススメ度 ★★*

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