こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

アクト・オブ・キリング

otello2014-04-18

アクト・オブ・キリング THE ACT OF KILLING

監督 ジョシュア・オッペンハイマー
出演 アンワル・コンゴ/ヘルマン・コト/アディ・ズルカドリ/イブラヒム・シニク
ナンバー 91
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

後ろ手に縛られた捕虜の首に針金を喰いこませ一気に絞める。流血が少なくいちばん簡単な殺し方と話す男。そしてギャング映画から学んだ暴力でいかに残酷に相手をいたぶったか吹聴する。彼と仲間が粛清したのは昨日まで隣人だったかもしれない人々、中には恋人の父親を手にかけた者もいる。映画は1960年代後半、インドネシアで起きた共産党員大虐殺の加害者に迫る。報復を恐れ固く口を閉ざす被害者の代わりに、何をしたかを彼らに再現させる手法に、加害者側はまるで武勇伝を語るかのように嬉々として手柄を自慢する。彼らは“国家の敵”を排除したのを誇りにし、罪に問われていないのを根拠に自らを英雄視しているあたり、歴史は勝者が作るものであることを象徴していた。

クーデター未遂事件の後、コミュニスト狩りの陣頭に立ったのはプレマンという民兵組織。彼らは共産党員だけでなく華僑も血祭りにあげていく。当時その先頭に立ったアンワル、ヘルマンらは自分たちが主役の映画の撮影と思い大張り切りで協力する。

プレマンはいわゆる愛国者集団で、彼らを弾劾するのは政府自体の否定にもつながるため、ある種アンタッチャブルな存在となっている。スマトラの地方都市ではヤクザ顔負けの脅迫で華僑店主からみかじめ料を巻き上げるがおとがめなし、政府の後ろ盾をえてやりたい放題の感すらあるが、彼らは当然の権利のごとく振る舞う。カメラは一切批判的な視点を交えないが、却ってこの組織の腐敗を強調していた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

とはいえ、内乱でも戦争でもそれほど遠くない昔なら、負けたほうは根絶やしにされ、勝者の栄光が称えられたはず。アンワルも殺した共産党員の気持ちなど歯牙にもかけずその数を競ったのだろう。そんな彼らがスタジオで拷問を受ける役を演じ、徐々に殺される側の痛みを自覚していく。良心が残っている普通の人間ですら殺人鬼に変わりうる、イデオロギーの恐ろしさが印象的だった。

オススメ度 ★★★

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