こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

無花果の森

otello2014-05-17

無花果の森

監督 古厩智之
出演 ユナク/原田夏希/小木茂光/三浦誠己/徳井優/木下ほうか/名高達男/江波杏子
ナンバー 89
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

帰る家のない女と警察に追われている男。ひなびた街で再会したふたりは求め合い、心の空白を埋めようとする。やがてお互いが秘密を知る唯一の存在となり、分かちがたい感情が生まれる。あまりにも確率の低い偶然はそれゆえ彼らにとって運命の必然、物語はやっと見つけた安息の地で、相手にすべてを委ねて自分がまだ必要とされていることを確認している男女の儚い愛を描く。そして彼らを理解し受け入れるのも孤高の偏屈画家と中年オカマという、世間から疎外された人々。家庭や社会から一度はみ出した人間がいかに孤独を共にしているか、人恋しくても叶わないからこそ他人の事情に深入りしない、そんな人々の心情が繊細に再現されていた。

世界的指揮者の夫からDVを受けている泉は、その事実をカメラマンのヨンハに直撃された直後に家出し、地方都市の老画家・天坊の住み込み家政婦となる。ある夜、飲みに行ったオカマバーでヨンハを紹介され驚く。

芸能事務所社長の覚せい剤疑惑を取材するうちに逆に罠にはめられたヨンハは、容疑をかけられて逃亡中の身をオカマ店長に匿ってもらっている。日中はねぐらからほとんど外出せず、夜も店の奥で仕込みを続ける毎日。彼にとっても泉は寂しさを癒してくれる光のようなもの、警戒はすぐに薄れ境遇の似た者同士はほどなく結ばれる。信じていた者に裏切られた苦悩と己の価値に対する疑問、“過去”を捨てなければ“現在”に留まれないふたりの切ないまでの情熱、それらが抑制の効いた映像に収められていた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

その後ふたりの仲がオカマ店長にバレ、急転直下の展開になると思いきや、意外に大人の対応で収拾する。このあたり通俗的な作品ならば、追い詰められた恋人たちは絶望のあまり心中を選ぶはず。しかし、理不尽な現実に直面しても原因が自身にない以上、あくまでも死のうなんて考えない泉とヨンハの生への執着が、人生讃歌となって共鳴していた。

オススメ度 ★★*

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