こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ローマ環状線、めぐりゆく人生たち

otello2014-05-23

ローマ環状線、めぐりゆく人生たち Sacro GRA

監督 ジャンフランコ・ロージ
出演
ナンバー 113
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

ローマの都市部と郊外を隔てる境界線の役割をする環状道路、その辺縁に暮らす人々は、時に愚痴をこぼしながらも会話を楽しみ、家族とのひとときを大切にしている。そこで描かれるのは、決して珍しくはないありふれた日常風景。映画は彼らに密着し人間の真実をあぶりだそうとする。カメラを意識せずフランクに胸の内を吐露する姿にはフィクションのような強調された喜怒哀楽はない。ところが、常に起きる小さな感情の起伏は、日々の営みに対する思いは国や民族が違っても共通していると教えてくれる。羊が放牧され食用うなぎが捕れるなど、大都市圏にもかかわらずいまだ第一次産業が残っているのに驚いた。

救命士は救急搬送されるけが人を励まし、害虫を研究する学者はヤシの木を調べ、貴族屋敷の管理人は有効活用を考え、キャンピングカーの熟女は厚化粧を施し、ウナギ漁師は新聞記事にぼやき、モダンな集合住宅の住人は眺めを楽しむ。

日中から深夜までひっきりなしに多種多様な自動車が行き交う幹線道路、そのわきの林で害虫の声を聴く学者や川にボートを浮かべる漁師は、規則正しい毎日を送る勤労者の代表のよう。一方、時刻を問わず現場に駆けつける救命士や、クラブダンサー、路上の売春婦・夫などは24時間眠らない都市を象徴する。そして時折顔を出すウクライナ人は、イタリアが豊かな先進国である証拠。彼らはみな、世の中を変えようとか大金持ちになろうという大志を抱いているわけではない。無論過去に夢を追っていた時代もあったのかもしれない、だが今は一日を無事終えられたことに安堵する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

“無縁仏”となったロッカー式墓地の遺体が共同墓地に埋め直される。人なんて所詮はちっぽけな存在、その人の死後知人縁者も死に絶えれば彼・彼女が実在した記憶は消えるのだ。だからこそ一生懸命に生きている人々が愛おしくなる。環状道路の交通量が激減する夜明け前、人も街もまどろんでいる時間帯の静寂が、人生に感謝と祈りを捧げているようだった。

オススメ度 ★★★

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