こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

ぼくたちの家族

otello2014-05-28

ぼくたちの家族

監督 石井裕也
出演 妻夫木聡/原田美枝子/池松壮亮/長塚京三/黒川芽以/ユースケ・サンタマリア/鶴見辰吾/板谷由夏/市川実日子
ナンバー 120
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

家族だから秘密にしておきたい事情をみな抱えている。時に重圧に押しつぶされそうになるのに、心配をかけたくないという理由以外に、お互いの領域にあまり立ち入りたくない遠慮が心の壁となって素直になれない。そんな状態が何年も続き、誰もが本音で語り合わない、うわべだけの平和な家庭。物語は、一家を支えてきた母が突然余命わずかと宣告されたのをきっかけに浮き彫りにされた様々な問題を描く。負債まみれで見栄っ張りの父、妊娠中の妻を抱える生真面目な兄、楽天的だが行動力のある弟、我が家の苦境に気づいた彼らはもう一度絆を取り戻そうと奔走する。都心からは離れすぎているけれど一応一戸建てに住み、息子2人をなんとか育て上げた母が、記憶障害になって初めてたまっていた鬱憤を打ち明けるシーンに、彼女の苦労が凝縮されていた。

物忘れがひどくなった玲子は検査を受ける。診断は脳腫瘍であと7日の命と告げられる。今後の処遇を話し合ううちに、玲子にも父にも多額の借金があるのを知った長男の浩介と次男の俊平は、手分けして優秀な医師を探す。

医者が手の施しようがない病状にもかかわらず、彼らは“悪あがき”を選択する。火の車だった家計と同様、とっくに破綻していたのに、ときどき思い出したように無邪気に夫や息子たちに対する愛を口にする玲子の様子に、彼女のために最大限の努力をしないと後悔すると悟ったのだろう。2人はカルテとレントゲン写真を手に病院めぐりをする。その過程で兄弟は、今まで見えなかった相手の長所を発見し、成長を認め合う。カネ・手間・感情、現状を鑑みればあっさりと死んでくれたほうが楽なはずなのに、良心を失わず玲子の快復を願う彼らの姿に深い感銘を覚えた。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて玲子を治療してくれる病院が見つかり、緊急手術が行われる。大変な危機を切り抜けてもまだまだ困難な道が続く。確かに自分たちの人生設計は狂った。だがそれ以上に助け合える人間関係と、不透明だけれど進むべき未来を手に入れた。そこで生まれた信頼こそがかけがえのない財産だとこの作品は教えてくれる。

オススメ度 ★★★

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