こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

私の男

otello2014-06-23

私の男

監督 熊切和嘉
出演 浅野忠信/二階堂ふみ/高良健吾/藤竜也/モロ師岡/河井青葉
ナンバー 145
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

骨がきしむような流氷の鳴き声、それはふたりだけの世界で息をひそめて生きる男女の魂の咆哮。天涯孤独の少女とまともな対人関係を築けない男は、運命に導かれ、分かちがたい絆で結ばれていく。肉体を貪り合っているときばかりが“生”の実感、その感覚はふたりの精神を支配する麻薬、物語は震災孤児と彼女を養子として育てた男の十数年にわたる、歪んだ、しかし切ないまでに純粋な愛の形を描く。唇を求めお互いの指をしゃぶり合い気持ちを確かめた後に交わるふたり、自らを罰するかもごとき血の雨に象徴される己を傷つけ鞭打つすさまじい愛欲は、昭和の演歌を聞くような情念を発散する。

津波で家族を失った花は遠縁の男・淳吾に引き取られる。数年後、中学生になった花は、淳吾と恋人・小町の仲を裂こうとする。その後、町の世話人・大塩に淳吾との交情を知られた花は、大塩を流氷の上に置き去りにする。

じっくりと腰を据えたカメラに収められた映像は、映画のテンポを犠牲にする反面、淳吾と花の感情を深く掘り下げる。心の空白を埋める唯一の他人、だがそこに優しさやときめきはなく、ただ相手の存在のみを欲している。決して祝福されない、だからこそ共犯者として秘密を共有している。そして逃れられない過去に捕らわれている自分たちに、むしろ居心地のよさすら覚えている。犯した罪が重なるほど思いは強まり、一緒に不幸になることに恍惚感を得ているのだ。彼らの退廃的な思考はある種の美学すら感じさせ、息苦しいほどの緊張感を生み出している。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

やがて、受付嬢として働き始めた花はエリートサラリーマン・尾崎と付き合い始める。それでも淳吾と花の腐れ縁はずるずると続いている。尾崎に淳吾の人生を引き受ける覚悟があるとは思えない。テーブルの下で足を絡ませる淳吾と花、己に幸福を禁じ更なる罪深さに身を投じるふたりに、人間の“業”が凝縮されていた。

オススメ度 ★★*

↓公式サイト↓