こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

幻肢

otello2014-07-11

幻肢

監督 藤井道人
出演 吉木遼/谷村美月/遠藤雄弥/紗都希/宮川一朗太/佐野史郎
ナンバー 156
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

手足などの身体の大切な部分を失ってしまうと、脳はまだそれがあるかのような幻覚を作り上げて安心する。欠損を受け入れられない防御本能が、あまりにもリアルな質感をイメージするのだ。愛する人の幽霊もまた脳の産物、物語は脳にダメージを被った青年が恋人の幽霊と過ごすうちに回復していく姿を追う。その過程は安らかで喜びにあふれた幻想、だが彼の脳が生んだ恋人は次第に現実を蝕み始め、消えた記憶がよみがえった時、忌まわしい真実が明らかになっていく。暗く沈んだトーンの映像は主人公の主観、一方で思い出の中の彼女は鮮やかな色彩に満ちている。いまだ自分の脳機能に自信が持てない医学生の、思考に靄がかかった感覚がシャープに再現されていた。

交通事故で重傷を負った雅人は事故当日の事を全く覚えていない。友人の亀井に勧められ脳に磁気刺激を与えるTMS治療を試すと、直後から雅人の前に恋人の遥の幻が見えはじめ、雅人は元気を取り戻していく。

雅人の前に現れた遥は、もちろん彼の脳が生み出した幻影。楽しい日々ばかりを思い出す雅人は、遥との関係がうまくいっていたと信じている。彼女はまるで実在するかのごとく振る舞い、当然雅人が期待する反応をしてくれる。ところが、亀井が時折見せる苦い表情が、雅人に重大な隠し事をしていることを示す。雅人のケガは単純な事故なのか、それとも何らかの意図が働いた結果なのか、映画はそんなミステリーの衣をまとい、雅人=観客の疑念をあおりたてる。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

さらに治療を続けていくうちに雅人の記憶は断片的に浮かび上がり、ついに事故当日にたどり着く。いらだちから来る不安、誤解が生んだ嫉妬。遥は雅人が心配でふたりの仲を修復しようとしたのに、正常な判断力をなくしていた雅人は暴走した。柔和な遥が血濡れの亡霊になる、彼女の痛みに気づいて初めて雅人は己の愚かさを知る。それでも、雅人の肉体だけでなく精神の快癒も願う遥の大いなる寛容が救いをもたらしていた。

オススメ度 ★★★

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