こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

リスボンに誘われて

otello2014-07-17

リスボンに誘われて Night Train to Lisbon

監督 ビレ・アウグスト
出演 ジェレミー・アイアンズ/メラニー・ロラン/ ジャック・ヒューストン/マルティナ・ゲデック/トム・コートネイ/アウグスト・ディール/ブルーノ・ガンツ/レナ・オリン/クリストファー・リー/シャーロット・ランプリング
ナンバー 164
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

偶然の出会いが歴史に埋もれた男の青春を発掘する。若き命を捧げたレジスタンスの日々、それ以上に身を焦がした情熱的な恋。物語は独裁政権下のポルトガル、自由と理想を求めて戦った若者たちの愛と友情の蹉跌を描く。英雄となるはずの青年は志半ばで倒れた、しかし年老いた同志たちは記憶にとどめている。そして彼の残像を無関係な第三者があぶり出し紡ぐことで、断片だった過去が全体像を見せ始める。誰かを好きになり、誰かを憎む。40年の歳月を経てもなお当時の痛みはうずき、忘却という鎮痛剤がかろうじて抑えている。それでも真実のみが死者の魂を慰め、生き残った者の心の癒すのだ。

スイスの高校教師・ライムントは、たまたま手に入れた本に強い感銘を受け、著者・アマデウに会いに行く。ところがアマデウはすでに死亡、生前の彼を知る人々を訪ねリスボンの街をさまよう。それはライムントにとっては日常から逸脱した冒険となっていく。

貴族階級出身の医師・アマデウは秘密警察の幹部を救ったのをきっかけに反政府運動に参加、そこで親友・ジョルジェの恋人・エステファニアを紹介される。大義を優先させるべき時なのに、抜群の記憶力で組織のキーパーソンとなった彼女に惹かれるアマデウ。一方で、恋人の裏切りと親友への嫉妬がジョルジェを暴走させる。やがて一斉摘発の夜、3人の運命は大きな転機を迎える。アマデウをめぐるエピソードをライムントが集めて回る過程は上質のミステリーのようなスリルにあふれ、彼の願いに思いを馳せるとき、ライムントは平和な国での退屈な人生を強烈に後悔する。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

永遠の時を生きるより、死が身近で息をひそめているからこそ、短くても濃密な時間を過ごしたい。エステファニアには届かなかったアマデウの言葉は、ライムントが彼女に伝える。革命には勝利した、だが愛には敗れた。かつての戦友とは、今はもう連絡も取っていない。それほどまでに悔恨に満ちた苦い思い出が切なさを誘う作品だった。

オススメ度 ★★★*

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