こんな映画は見ちゃいけない!

映画ライター・福本ジローによる、ハリウッドの大作から日本映画の小品までスポットを当てる新作映画専門批評サイト。

little forest 夏/秋

otello2014-08-01

little forest 夏/秋

監督 森淳一
出演 橋本愛/三浦貴大/松岡茉優/温水洋一/桐島かれん
ナンバー 162
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています

樹木や水田から立ち上る水蒸気で風景がかすむ盆地、夏でもストーブを焚いて家の中を乾燥させなければならないくらい湿度が高い。瑞々しい緑の山に囲まれた小さな一軒家で独居するヒロインは、その環境を楽しみながらコメや野菜を育て魚を捕り調理する自給自足を実践している。人間が暮らしていくのは他の命を貰い受けること。カメラは彼女の日常に密着し、収穫し、下ごしらえをし、発酵させ、火を通し、そして皿に盛る一連の作業を通じて、食生活を維持していくのはいかに大変かを訴える。体にいい、地球に優しい、でもいくら食材が手に入ってもおいしいものに仕上げるには驚くほど手間がかかる。だが、それは大地の恵みへの感謝、生きる喜びの実感。映画は彼女のスローライフを通じ、豊かな生活の質を問う。

商店まで自転車で30分もかかる山奥の集落に住むいち子は、水田や野菜畑で農作物を栽培しつつ、パンを焼き、米サワーを冷やし、自家製のジャムやソースを作ってはいただく日々を送っている。

畑や山、川で採れた素材を丁寧に料理していく姿はまるで修行僧のごとく禁欲的。味と盛り付けにこだわるが、食べる楽しみを分かち合う相手はいない。己のためだけに作った美味の数々を並べた食卓でひとり箸を動かす場面は、己を見つめ直す儀式のようだ。もちろん幼馴染や後輩とおしゃべりするし、農家の主婦との交流もあるが、あえて孤独な時間に浸って彼女は何かを見つけようとしている。ここが故郷のはずなのに、どこか彼女に“よそ者感”が漂うのは決して方言を口にしないからではないだろうか。

◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆

まだ夏/秋編では、「自分の人生から逃げてきた」といういち子の秘められた過去も、彼女に様々なレシピを教えた母が突然いなくなった理由も、漠然とした輪郭すらつかめない。このあたりの伏線が冬/春編できちんと回収されるのを期待したい。濃密な自然の空気が凝縮された映像の美しさが印象に残る作品だった。

オススメ度 ★★*

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