ふしぎな岬の物語
監督 成島出
出演 吉永小百合/阿部寛/竹内結子/笑福亭鶴瓶/笹野高史
ナンバー 177
批評 ネタばれ注意! 結末に触れています
誰にでも笑顔で接し、他人の話に親身になって耳を傾ける。柔らかな手で魔法をかけられたコーヒーは飲んだ人の心をゆっくりとほぐしていく。町のはずれの岬にひっそりと建つ小さなカフェ、ヒロインは立ち寄る人々のオアシス的な存在として慕われている。そんな、清純可憐な乙女がそのまま年齢を重ねたたたずまいを、吉永小百合はイメージ通りに演じている。映画は彼女とカフェに集まる客との交流を通じ、人と人のつながり、善意と優しさを描く。小さなトラブルはあっても住人は皆顔見知り、慶事は全員で祝い、困った時は率先して助け合う。濃やかな人情と思いやりに満ちた人間関係はユートピアを思わせる。
豆を挽き、島の湧水で一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れる悦子。店のそばのバラック小屋では甥の浩司が彼女を見守るように暮らしている。ある日、父の反対を押し切って結婚したみどりが町に戻ってくる。
短慮だが実直、愛情豊かだが恋は苦手。大人になったガキ大将的キャラクターを阿部寛が熱演、特にプロレスシーンでコミカルな味わいを出している。その他のベテラン陣も収まるところに収まった無難な配役。“定番”的な安心感を醸し出すキャストで脇を固めた上で、物語は悦子に好意を寄せる常連客との最後の晩餐や、浩司とみどりの過去と現在、みどりと父親の確執と和解などを織り込む。そこで彼らが見せる、相手の気持ちを忖度しすぎる男と女、言いたいことをなかなか言い出せなくて結局呑み込んでしまう優柔不断さが共感を呼ぶ。それらのシーンはあくまでも散文的だが、予定調和的なハッピーエンドに向かうと予想させる。
◆ネタばれ注意! 以下 結末に触れています◆
やがて、壁にかかった絵を気に入った女の子から亡夫の事を聞かされた悦子は、はじめて動揺を見せる。夫とはどんな人物だったのか、彼女の口からは印象的な言葉は出ない。それでも毎朝彼の幻影を見るあたり、夫への思いは変わってはない。海から天高く昇る虹に、彼女の深い愛が象徴されていた。
オススメ度 ★★*